〈このマンガがすごい!2025オンナ編1位〉よしながふみが16年寝かせた『環と周』を連載する際に変えたもの「男女における『わかりやすいすれ違い』は、もう描かなくていい」
男女間のわかりやすい「すれ違い」は、もう描きたくない
――第1話の現代を生きる環と周夫婦は、共働きの設定で家事分担もしっかりできていて、現代風な印象を受けました。よしながさんは、これまでも『愛すべき娘たち』や『子供の体温』などで親子モノを描かれてきましたが、今作は関係がマイルドになったというか、「対話」をしている印象を受けました。 はい。ここ5年ほどで社会は激変したと思っているので、それに合わせて調整しました。16年前は、昔ながらの夫婦のすれ違いを描いていたんですよ。 ――「夫がこういうことしてくれない、妻のこういうところが考えられない」のような? そうそう。なので、男女における「わかりやすいすれ違い」は、もう描かなくていいかなと。逆に「きちんと対話している夫婦であっても、うまくいかないことがある」というほうが、現代ではリアルなような気がします。 ――どんなに努力していても、妻と夫が考えていることは違うし、娘の思考もわからない、と。 意見のすれ違いを目の当たりにして「どうしてこの人と結婚したんだろう?」と思うこともあるけれど、最終的には相手の姿勢に「こういうところが好きだったんだ」と納得する。夫婦関係って、この連続なんじゃないかなと思います。
「若い世代の力になりたい」という気持ち
――第3話の「アパートの近所に住む独身女性・環と少年・周」の話は、昭和のホームドラマのようでした。 この話は、30代半ばで独身かつ不治の病にかかった主人公・環が、近所に住む少年・周と出会って、彼のお世話をすることで充実した時間を過ごす物語です。70年代末ぐらいの設定で、向田邦子さんや山田太一さんのような世界観にしようと思っていました。 このエピソードも、想定よりもだいぶ話の方向性を変えました。 ――どのように変えたのですか? 担当編集さんをはじめ、自分の周りの人たちが50歳に近くなったぐらいで「若い世代の力になりたいと思うようになった」と話されることが多くなったので、それを反映させたくなりました。 環は、周のお母さんから「どうして私たちに優しくしてくださるの?」と聞かれますが、それは環の中にある「若い世代の人たちを助けることができたらとてもうれしい」という気持ちゆえなんです。 年齢を重ねると、人には親心みたいなものが生まれると思うんです。子どもの有無に関係なく、男性にも、独身の人にも芽生える感情。漠然とこういう気持ちを持っている人は多いように思います。 若い人に「何か伝えたい」という気持ちが空回りすると、説教になってしまうのかもしれないですが……。