右手を失ったピアニストに贈られたラヴェルの名曲『左手のためのピアノ協奏曲』【クラシック今日は何の日?】
クラシックソムリエが語る「名曲物語365」
難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。
ラヴェル『左手のためのピアノ協奏曲』 左手のための作品を生み出した不屈の精神
今日3月3日は、オーストリア生まれのピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887~1961)の命日です。 ブラームスやマーラーなど、多くの著名な文化人と交流する実業家の父のもとに生まれたヴィトゲンシュタインは、ピアニストとして順調なデビューを果たします。ところがその翌年、第一次世界大戦が勃発。招集されたポーランド戦線において負傷し、右手を失ってしまいます。 しかし、ピアニストへの夢を諦めきれない彼は、不屈の精神と猛練習によって、“左手のピアニスト”として再起を果たしたのです。そして、同時代の作曲家たちに自らのための作品を依頼します。ブリテン、ヒンデミット、コルンゴルト、プロコフィエフにラヴェルなど、時代を代表する作曲家たちがこれに呼応。これら左手のための作品の数々は、今も右手を故障したピアニストたちにとっての大きな励みとなっています。 中でも、名作の誉れ高いラヴェル(1875~1937)の『左手のためのピアノ協奏曲』は、ヴィトゲンシュタインの名と共に後世に残る名曲として愛されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。
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