大学院の指導教員から「俺の秘書にならへんか?」 セクハラ、パワハラで心が折れた彼女が島根の離島で生き返るまで
若手社員はなぜ会社を辞めるのか? 入社して数年で、あるいは30代前後で転職を経験した人たちを、元新聞記者のライター、韓光勲氏が紹介する連載「若手が会社を辞めるとき」。「若手社員が辞める理由」と「辞めた若手社員はどこへ行ったのか」を明らかにしていく。(JBpress) 美里さんが「離島留学」をした際に撮影した写真。島根の海の海産物 ◎連載「若手が会社を辞めるとき」記事一覧はこちら (韓光勲:ライター、社会学研究者) 本人は望んでいないのに、人生の選択において「貧乏くじ」をいつも引いてしまう人がいる。筆者の友人の女性、美里さん(仮名、27)だ。大学院ではハラスメントに遭って退学し、最初に働いたマッサージ店では横暴なオーナーに苦しめられて退職した。 そんな彼女が島根県の離島で3カ月間の「留学」をして帰ってきた。久しぶりに会うと、顔は健康的に日焼けし、表情はさっぱりと明るくなっていた。今回は、キャリアの転機にいる美里さんに話を聞いてみた。 ■ 指導教員から受けた露骨なセクハラ 美里さんは大阪市の出身。母親が在日コリアンで、日本人の父親を持つ。本人は日本国籍だ。実家が筆者の家の近所で、似た境遇にある友人の一人として相談に乗ってきた。 大学は関西の国公立大学を卒業。卒業論文は学部の賞を受けるなど、高く評価された。研究を続けようと大学院修士課程に進んだ。 大学院の1年目は順調だった。当時新聞記者だった筆者と出会ったのもこの頃である。大学院のコースワークを頑張り、研究に奮闘していた。 雲行きが怪しくなったのは、修士課程2年生になったころだ。指導教員のA教授(50代男性)は「お茶会」と称して、美里さんや他の女子学生を自らの研究室に集めた。研究とは関係のないどうでもいい自慢話ばかりを聞かされた。A教授からはLINEのアカウントを教えるよう求められ、不必要なメッセージばかりが送られてきた。深夜に送ってくる日もあった。
A教授からは「俺の秘書にならへんか?」というメッセージもあった。将来は研究者になることを目指していた美里さんにとって、侮辱以外の何物でもなかった。居酒屋の席では「女の子がメニューを選んでくれ」と言われた。 「お茶会」では「研究者としてのキャリアを考える上での助言をする。結婚に関してはいつしても問題ないが、妊娠・出産は考えてしないといけない。リミットは45歳までだ。出産をきちんとしたタイミングで行わないといけない。出産した女性は研究よりも子育ての方にやりがいを感じてしまうから、研究者としてのキャリアが積みにくくなる」という発言があった。露骨なセクシャルハラスメントである。 ■ 他の教員らに被害を訴えると・・・ 体調が悪化し始めた。夜は寝つきが悪くなり、体重は減った。身体的症状が現れ始め、大学院の他の教員らに相談した。返ってきたのは驚くべき答えだった。 「Aさんが指導熱心で、あなたのことを一番弟子のようにかわいがっていたから、熱が入りすぎたんだよ」 「Aさんも、一番の愛弟子からこうやって訴えられて、精神的に動揺して、変な行動をとり続けてしまっているんだと思う。ショックを受けて、彼の中での人生設計がガタガタと崩れてしまったんだよ」 「僕たちもAさんの同僚として情がある。教授会は告発を受け付けるようなシステムになっていない」 被害を訴える美里さんに手を差し伸べてくれる教員は誰もいなかった。自己保身をするか、同僚を守る人しかいなかったのだ。