イタリア地震 進まない建物の耐震対策 マフィアの復興事業への介入を警戒
8月24日の未明にイタリア中部で発生したマグニチュード6.2の地震では、多くの人が就寝中の午前3時半過ぎに発生したことや、多くの建物が耐震性の低いものであったことも原因となり、少なくとも296人が死亡し、約3000人が家を失う大惨事となった。イタリア政府と被災地となったエリアの自治体が協力して、これから復興に向けての動きが本格化する見通しだが、復興事業にマフィアが介入することを警戒する声が早くも上がっている。 【図】ネパールだけじゃない こんなにある世界の地震頻発地帯
古い建物の多くに耐震措置が施されていない現状
イタリア中部ウンブリア州のノルチャ近郊を震源地とするマグニチュード6.2の地震では、ウンブリア州に隣接するラツィオ州の小さな町アマトリーチェが大きな被害を受けた。観光シーズン真っただ中のアマトリーチェでは、地元で行われる「アマトリチャーナ祭り」を前にして多くの観光客が町の周辺に滞在しており、犠牲者の中には外国人観光客も含まれていた。290人以上の死者を出した今回の地震では、犠牲者の大半がアマトリーチェで命を落とす結果となった。 イタリアはヨーロッパでも有数の「地震大国」として知られている。国連が2004年、世界各地で発生する地震に関するデータをまとめた報告書を発表したが、1980年から2000年までの20年間でマグニチュード5.5以上の地震が発生する頻度の高い国として、イタリアは13位にランクインしていた。イタリアよりもこのクラスの地震がより頻繁に発生したのはヨーロッパではギリシャとトルコのみだ。ギリシャやイタリアでは遺跡や古い町並みが世界中の多くの観光客から人気を集めているが、他のヨーロッパ諸国と比べて地震が頻繁に発生するこれらの国々で、耐震や免震といった対策がどのくらい建物に施されているのだろうか。 アフリカプレートとユーラシアプレートの境界にあるイタリアでは、古くから地震が多発しており、古いものでは1169年にシシリア島を襲った地震と津波で最大25000人が死亡したという記録も残っている。1908年にシシリア島で発生した地震では7万5000人以上、1915年のアブルッツォ州ラクイラで発生した地震でも3万人以上が死亡している。地震はイタリアの南北に関係なく発生し、2009年1月から4月にかけて前述のラクイラで発生した群発地震では、300人以上が死亡し、約6万人が家を失った。頻発する地震への対応策として、イタリア政府は1974年に耐震建築の基準を制定した。しかし、行政手続きの煩雑さが市民によって敬遠され、歴史的建造物を保全すべきという風潮が全国に存在するため、耐震工事が思うように進んでいないのが現状だ。 加えて、犯罪組織の関与も指摘される手抜き工事や、工事費の着服などが頻繁に発生するため、 ローマの中央政府で決めた耐震計画が、地方では思うように進んでいないという実態も地元メディアによって伝えられている。アマトリーチェの倒壊現場を視察した検察官はラ・リパブリカ紙に対し、倒壊した建物の多くで工事費を浮かす目的でセメントではなく砂が多用されていたと語っている。今回のイタリア中部地震が発生する前の2013年、アマトリーチェにある小学校では約70万ユーロを投じた耐震工事が実施された。予算のほとんどは耐震工事そのものに使われる予定であったが、のちに行われた調査によって耐震工事に関する書類や、検査基準をクリアした際に使われるシールやスタンプが偽物であったことが判明した。結局、耐震工事そのものには予算の4分の1程度しか使われていなかった。イタリアの捜査当局は8月31日に小学校の耐震工事に関する書類の押収と調査を開始。工事を請け負った業者は以前からシシリアのマフィア「コーサ・ノストラ」との結びつきが指摘されていた。