イタリア地震 進まない建物の耐震対策 マフィアの復興事業への介入を警戒
GDPの1割にも? 経済に深く浸透するマフィア
6月に行われたイタリア統一地方選挙。首都のローマでは反EU・反汚職の姿勢を明確に打ち出した弁護士で前ローマ市議会議員のビルジニア・ラッジ氏が市長選に当選し、ローマ初となる女性市長が誕生した。ラッジ氏は2009年に誕生した新興政党「五つ星運動」に所属しており、北部の工業都市トリノでも同党所属の女性候補が市長選挙で勝利を収めている。ローマでは2014年に地元政界関係者とマフィアの癒着をめぐるスキャンダルが明るみになり、前市長も公費流用疑惑で辞任に追い込まれた。イタリアの伝統ともいえる縁故主義やそれにリンクした汚職に憤る市民の声を代弁する形で、「五つ星運動」は着々と支持基盤を拡大しており、2018年に行われる総選挙で台風の目となる公算が強まっている。 しかし、ラッジ市政は前途多難と言わざるをえない。ローマに根強く残る汚職や縁故主義の撤廃、公共サービスの改善を掲げて市長に当選したものの、すでに何人もの側近や市交通局、ごみ運搬会社のトップが辞任を表明しており、政治経験の無かったラッジ氏にローマの抜本的な改革を期待するのは無理といった悲観論が声高に叫ばれ始めている。ローマでは1970年代から80年代にかけて、地元の犯罪組織「バンダ・デッラ・マリアーナ」が数々の犯罪に手を染めていたが、その残党がローマ市の行政幹部と癒着し、ごみ収集事業から難民やジプシー向け住宅建設といった様々な分野に介入していたことが近年明るみになっている。ラッジ氏は市長就任から間もなくして、犯罪組織と関係したごみ運搬業者の追放を行ったが、代わりにごみ運搬を行う業者が現れず、ローマ市内の各所では放置されたごみから漂う悪臭が日常的なものとなった。 「バンダ・デッラ・マリーナ」はもともとイタリアの極右組織に所属していた男性を中心にローマで作られた組織で、70年代から80年代にかけて、イタリア各地で発生した多くの事件への関与が取り沙汰されている。しかし、いわゆる伝統的な「マフィア」とは異なる新興勢力と位置付けられている。イタリアの伝統的なマフィア組織といえば、シシリアの「コーサ・ノストラ」、ナポリがあるカンパニア州の「カモッラ」、南部カラブリア州の「ンドランゲタ」などが有名で、これらの組織はイタリア国外にも拠点を持っていると長年にわたって報じられてきた。震災などの復興事業や高速道路建設など、莫大な金額が動く公共事業への介入が指摘されてきたのは、南部の伝統的なマフィア組織だが、イタリアの首都でも犯罪組織と行政の癒着は他都市同様に存在してきたのである。 ミラノにあるルイジ・ボッコーニ商業大学の研究者らが2012年に発表したデータによると、マフィアを中心とした犯罪組織は1年間でイタリアのGDPの約11パーセントに相当する金額を不当に稼ぎ出しており、公共事業から一般の経済活動まで、幅広い分野でマフィアの影響力が依然として強いことを示す結果となった。復興関連事業からマフィアを締め出そうとするイタリア検察の意思がパフォーマンスではないことを期待するが、イタリア社会におけるマフィアの影響力が弱まるまでにはまだまだ時間を要しそうだ。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト