コンビニバイト苦労人ボクサー黒田雅之が“怪物”井上尚弥との150回スパーを自信に変えて6年ぶり2度目世界挑戦
32歳。もうボクサーとしての残り時間は多くない。 「引退もよぎってくる年齢。でも、そう考えると相手は僕からボクシングを奪いにくる人間。じゃあ奪ってみろよ、という気持ち。切羽詰まった状態かもしれないが、今、そういう状態でボクシングができることが楽しい」 とても哲学的に戦う意義を語る。彼のボクシング人生がぶれがない理由である。 では黒田は世界王者になれるのか。 王者のムザラネは、39戦37勝(25KO)2敗の戦績を誇る右のボクサーファイターで大晦日にマカオで“大学院ボクサー”の坂本真宏(六島)と真っ向打ちあって10ラウンドTKOに葬った。36歳だがスタミナは十分。2敗のうちひとつは11年前に絶頂期の“レジェンド”ノニト・ドネア(フィリピン)と戦いTKOされたもの。小柄だが左ジャブを軸に一発一発、力強いパンチを叩き込んでくる。コンビネーションブローも多彩だ。 対する黒田は、ここ数試合、足を止めてリングの真ん中で戦うファイタースタイルに変えているが、基本的にはKOパンチャーではなくバランスとスピード重視型の出入りのボクサー。 「ムザラネの印象は優しい目をしているなと(笑)。どっしり構えてガードは固い。左を丁寧についてきて体のバランスもいい。ただKO率は高いが一発はない。それにボディが空く。パンチは当たるし噛み合うと思う。先にぶん殴って倒す。先に当てることを1ラウンド、1ラウンド積み重ね、結果的に判定になるかもしれないけれど、序盤、中盤、終盤に倒すイメージを持っている。負けるイメージはない。勝手知ったる後楽園だからイメージを抱きやすい」 川崎新田ジムには、専属のメンタルトレーナーがいて、徹底したイメージトレーニングを行っている。入場から勝利の瞬間までのシミュレーションが黒田には出来上がっているようである。 ここ数試合ダウンシーンが目立つが、「もろくなったわけじゃない」と黒田。この試合に勝つためには、ある程度の耐久力が必要だろう。そこは井上とのスパーが支え。距離はリーチで7センチ上回る黒田のほうが長い。その長所を生かしたボクシングでヒット&ウエーを徹底。常にラウンドを支配しポイントを重ねていくところが勝機か。 「6年前の試合は、もう忘れたが、あの地元の方々の熱い声援だけは忘れない。忘れてはいけないと思う」 こういう誠実なボクサーを地域の人が愛するのはよくわかる。 新田会長は、今後、Jリーグ、川崎フロンターレとのコラボ企画を展開、随時発信していきたいという。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)