コンビニバイト苦労人ボクサー黒田雅之が“怪物”井上尚弥との150回スパーを自信に変えて6年ぶり2度目世界挑戦
自信の源になっているのは世界王者と拳を交えてきた数々のスパーリングである。元世界2団体統一王者の田口良一(ワタナベ)とも戦ったし、WBC世界ライトフライ級王者の拳四朗(BMB)ともスパーを重ねた。そして、あの“モンスター”WBA世界バンタム級王者、井上尚弥(大橋)とも、プロテストの相手を務める前後から、合計150ラウンド以上のスパーを数えてきた。 「世界王者とスパーをして何が違うのか、といつも感じていた。何が違うのかは、次の世界戦でわかること。でも、そう感じなかったのが一人だけいる。井上尚弥選手です」 長いときは8ラウンド、最近は「さすがに4ラウンド」とのスパーの歴史があり、つい先月も急に新田会長から連絡があって黒田にお鉢が回ってきた。 「井上とスパーをやったら倒される」は珍しくなく、最近では、WBA世界バンタム級暫定王者のレイマート・ガバリョ(フィリピン)でさえ倒され悔し涙を流している。 だが、黒田は「僕は幸いにして一度もダウンはない。井上選手とやっているんですから怖いもんはないですよ」。 16オンスのグローブを使うスパーとは言え、井上のパンチとスピードは黒田にとってこれ以上ない世界戦の予行演習となっている。階級は違えど井上以上に強い世界王者はいない。 ちなみに井上とのスパーは新田会長が段取りしてきたもの。“一種のパワハラ”は、想定外の出来事を与えて黒田のメンタルを鍛えるための意図的なものだという。 夜中に急に連絡があって「今すぐ来い」「やっぱりいい」などの理不尽なやりとりも繰り返されてきた。 新田会長が言う。 「前は想定外のことが起きるとガタガタと崩れた。少しは精神が強くなったかな」 高校時代に父を亡くし家計を支えるため、ファミレスで8年バイト、現在も自宅近くのコンビニでバイトを続けている。 勤務体制はまちまちだが、週に6日勤務することも。早朝にレジに立ち、その後ロードワークを走る。4回戦、6回戦ボーイでは、いわゆる“コンビニボクサー”は珍しくない。だが、32歳にもなる元日本王者がコンビニバイトの兼業をしている話は、あまり聞かない。 毎年、クリスマスのシーズンに長靴にお菓子が詰まった商品を父親風情のお客さんが買っていくとき「僕は同じ年で独身。何をやってんだか」とも考えるという。 「でもね。こういうバイトを続けているからこそ強いとも思う。生活のリズムがあるから世界王者になっても続けると思う」 ハングリーだからこそ強い。 最近、世間を騒がすコンビニ店員のSNS動画投稿炎上問題にも「そんな余裕もない。余裕があってもやらないですけどね」と、きまじめに笑う。