現役大学生の書店、福岡・糸島〈All Books Considered〉が、「先のことはまったくわからない」と言う理由
コロカルニュース
かつて、話題の新刊やコミック、雑誌などを買いに足を運んだまちの書店が「だいぶ減ったなぁ」と実感する日々。20年前と比べると、国内の書店数は半減しているといいます。福岡市内でも、半世紀にわたって営業していた天神地下街の書店が今年8月に閉店し、ニュースになりました。 【写真で見る】〈All Books Considered〉オーナーの中田健太郎さん 本を買うだけなら便利なインターネット通販があるし、わざわざお店まで出かける必要もない……そんなふうに思っている人も多いのではないでしょうか。 もしかしたら、「遠くても、そのお店を目指して出かけたくなる本屋さん」に、まだ出合っていないだけかもしれません。 ■古着屋の接客スタイルで本を売る 新しい朝ドラの舞台としても注目を集めている「糸島」。海と山が近く、マリンスポーツが楽しめるエリアとして、また九州大学の広大なキャンパスがある場所としても知られています。そんな糸島エリアに2年前オープンした書店が、〈All Books Considered(以下、ABC)〉です。 店内には、現役の大学生でありオーナーの中田健太郎さんとスタッフが選んだ新刊、古本、アートブック、ZINEなどがずらり。本だけでなく、ABCスタッフのひとりが運営するブランド〈エグゼクティブ愚か〉の内臓のぬいぐるみ、有田焼の大皿、古着をリメイクした洋服……などなど、自由で混沌としたアイテムたちが並んでいます。 もともとは同じフロアの4畳半のスペースで営業していた〈ABC〉。その手狭さゆえ、来客があれば「話しかけない方が不自然」だったそう。「普段どんな本を読まれているんですか?」という会話からはじまり、その時々でおすすめの本を紹介する、「古着屋のような接客スタイル」が定着しているといいます。 戦略的に「積極的に話しかけていこう」と決めたわけではなく、「個人的に古着屋が好きなので、こういうコミュニケーションのほうが自分たちにとって自然だったんです」とのこと。取材で伺った日も、常連のお客さんとの世間話が弾んでいました。 ■はじまりは、30センチ四方の本棚 中田さんの「本屋」としてのキャリアが始まったのは、〈ABC〉の1階にある〈糸島の顔が見える本屋さん(以下、糸かお)〉。中田さんが住んでいるシェアハウスのオーナーが〈糸かお〉を共同運営していたことがきっかけでした。いわゆる「シェア型書店」で、約100人のオーナーが各自の棚にさまざまな本を並べ、販売しています。 「コロナ禍の夏休みで時間が有り余っていたときに、自分の本棚に『引きの強いタイトルの本』を並べて楽しんでいたんです。本を並べることで、横断幕を掲げるような、主張するようなことができるなと思っていて、その延長のような感じで〈糸かお〉の棚を借りたんですが、30センチ四方の棚では全然足りないなと。その後、2階のスペースを借りられることになったので、大学の友達に声をかけて、メンバー4人で〈ABC〉を始めました」 「本好き」というよりも、好きな「何か」を持っている人が集まり、まるでバンドのようなノリで始まった〈ABC〉。オープンから2年経った今年、同じフロアのテナントに空きがでたことで、4畳半からその3倍以上のスペースに移転。オリジナルメンバーの卒業、新しいメンバーの参加もあり、いま、大きな変化の時期を迎えています。 ■無意味なもの、無価値なものに惹かれる 「本屋をやりたい」という気持ちの原点にあったのは、中田さんの出身地、宮崎県にある〈ポロポロ書店〉。座右の書『はたらかないで、たらふく食べたい』は、高校時代にここで出合ったといいます。 「意味のわからないことをする店なんです(笑)。例えば、『ヤッホー割』というのをやったりしていて。お店のなかで『ヤッホー』と叫んで、何デシベル以上なら割引します、というキャンペーンなんですが、本屋ってそもそも大きな声を出すところじゃないし、『何それ?!』って思うようなことばかりしてるんですよ」 ツッコミどころが多い、ということですか?と聞くと、「ツッコミどころというより、『それでいいんだ!』という感じでものすごいショックを受けました」と中田さん。 「普通はみんな、意味のあること、説明できることをすると思うんですけど、〈ポロポロ書店〉は意味がなくて、説明もできないようなことをするんです。でも本当は、価値や意味がないことの方がむしろ難しいと思っていて。自分はそこに惹かれるし、心のどこかで『そうでありたい』と思ってるんです」