現役大学生の書店、福岡・糸島〈All Books Considered〉が、「先のことはまったくわからない」と言う理由
ひとの人生を狂わせたい
〈ABC〉は「大学生がつくった書店」として注目を集めたため、各種メディアに取り上げられる機会も多かったそう。そんな中で、周囲からの“意味づけ”に疑問を感じることもあったといいます。 「学生なので『ガクチカ(※)にいくらでも書けるね!』的なことを言われたりしたんですが、自分はやりたくてやってるだけであって、ガクチカのためにやってるわけじゃない。あくまで自分のためなので。本棚で、自分の主張したいことを主張したい、というだけなんです」 ※ガクチカ:学生時代に力を入れたこと。就職活動で聞かれる代表的な質問のひとつ。 ■ひとの人生を狂わせたい 「主張する」という目的であれば、それこそモノを書く、音楽をつくる、作品をつくるなど、いろんな手段があるなかで、「本屋」を選んだ理由は何だったのでしょうか。 「僕は、『ひとの人生を狂わせたい』と思ってるんです。本を一冊買うのってたいした買い物ではないんですが、確実に何かの歯車がズレていくような体験だと思っていて。本を通して、そういう体験をしてもらいたいんです」 本屋として営業をはじめて、印象に残っているのが、「本が好きだという、小学5年生のお客さん」だという中田さん。 「その子が、永井玲衣さんの『水中の哲学者たち』を買ってくれたんです。確か1700円ぐらいで、小学生にとってはなかなか大きな買い物ですよね。その夜、布団の中で『あの子の人生を変えてしまったんじゃないか』と思って、ドキドキしたんです。『どんな大人になってしまうんだろう!』って」 ひとの人生の転機になるもの、これまでの人生観を覆してしまうもの。そんな本との出会いを提供できることを実感したといいます。 「『なんだかよくわからないお店で買ったけど、この本を読んで、自分の中のいろんなものが変わった』と、いつか思い出してくれたら本望かもしれない。そのときに、『自分はこういうことがしたかったんだ』というのが、だいぶはっきりした気がします」 年齢に関係なく、もっとその人自身の人生を楽しんでほしいし、今とは違う選択肢もあるということに気づいてほしい。世の荒波にもまれ、つい流されてしまう日々のなかで、「本当にそれでいいのか?」と真剣に問いかけてくるような、そんな思いが「本棚の主張」に込められているのです。 ■これからのことはわからない 「将来、何をして生きていけばいいのか。」これは、〈ABC〉のオンラインショップの最初に書かれている言葉。自己紹介ではなく、問いかけからはじまるのが斬新です。この問いに重ねて、〈ABC〉の今後の展望についてうかがいました。 「いろいろやりたいことはあるし、考えてるんですけど、先のことはまったくわからないですね。ポップアップとか、イベントとかも続けていきたいなとは思ってますが、10年後は……もう全然わからないです(笑)」 「地域に根ざした書店に」とか、「とにかく長く続けたい」とか、そういうのも特にないんですよね、とのこと。それは逆に、形式ばった言葉にしたくない真面目さのようにも、これからの可能性を言葉で制限したくない希望のようにも感じられて、10年後の〈ABC〉がますます楽しみになるのでした。 information All Books Considered 住所:福岡県糸島市前原中央3-2-14 MAEBARU BOOK STACKS 2F 営業時間:11:00~17:00 定休日:不定休 Web:All Books Considered Instagram:@a.books.c writer profile Haruko Sato 佐藤 はるこ さとう・はるこ●福岡生まれ、福岡育ち。成人してから引っ越した回数は10回以上。日本各地を移動しながら、2010年からフリーランスのライターとして活動。建築、都市、まちづくりに興味あり、音楽やアートの話が好き。人から話を聞くのがとても好き。 【コロカルニュース】とは? 全国各地の時事ネタから面白情報まで。コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。