私たちは「死ぬまで働かないといけない」のか? 意外と誤解している「定年後の実態」
「定年後は仕事を選べない」という誤解
第2の誤解は「定年後は仕事を選べない」というものである。 この誤解の背景にあるのは、現役時代には自由に仕事を選べているのだという思い込みがあるのだと思われる。 しかし、むしろ現役時代には多くの人に自身が守るべき家庭があって、お金のことは気にせずに自分のやりたい仕事を自由に選ぶことなどはできないというのが現実ではないか。 多くの現役世代の方の働き方を見てみると、特別なスキルがある人や配偶者が高額の収入を稼いでいる人などを除けば、家計経済上の事情から今いる会社で働く以外の選択肢は実質的に制限されているという人が多数派だと私は考えている。 一方で、定年後の人は、労働時間や時給などの労働条件や仕事内容などを見比べながら、様々な仕事の中から現在の自身の状態にあった仕事をその都度選んでいる。 たしかに、歳を取っても大企業の社員としてずっと働き続けられる人はほとんどいない。学生などに人気の高い大企業では、毎年若い人材を採用することができることから、シニアを外から積極的に採用したいという企業はほとんど存在しない。 しかし、本当にこういった仕事を定年後も続けることが自身の望みなのかはよく考える必要があるだろう。大企業で高い役職に就くことだけがキャリアの目標なのだという現役時代の先入観を取り払ってみると、定年後に無理なく働きながら社会にたしかに貢献できる仕事は、世の中にたくさんあることに気づく。
「生涯に渡って競争に勝ち続けなければならない」という誤解
これに関連して、生涯現役時代においては「生涯に渡って競争に勝ち続けなければならない」のだという考えも、かなり誤解が含まれている。たとえば、現役時代に大企業で出世をし、定年退職後も企業の顧問に就くというような働き方を理想とする人がいる。しかし、そんな人は世の中にどれだけ存在しているのだろうか。 これからの時代において、現役時代に努力をして人との競争を制し、定年後にはキャリアの上りを目指そうと思うことは間違いである。 人口ピラミッドが成立していたかつての日本社会では、現役時代における競争で優位な立場を築き、歳をとったときには論功行賞で報いられるようにするという戦略は有効だったかもしれない。 しかし、生涯現役時代を迎えている日本社会において、多くの企業では人口ピラミッドが崩壊し、むしろ年齢にかかわらず、多くの人に一プレイヤーとしてシニアに活躍をしてもらう必要性が高まっているのである。 だから、現役時代に他者との競争に勝ち残り、定年後は人にアドバイスをするような立場でのみ仕事をしたいという考え方は現代においてはもはや通用しなくなっていると考えたほうがいいだろう。 だから、専門性を磨き続き続けなければならないのだという議論もある。これは正しい面もあるが、そうでない部分もある。 というのも、定年後はそんなに多くの稼ぎがなくてもそれなりに豊かな生活ができるため、専門性を磨き続けて誰にも代えられないような仕事に就かなくてはならないというところまで気負わなくてもいいと思う。 実際には、多くの定年後の就業者は、生活に身近な「小さな仕事」で無理なく人の役に立つ仕事をされている人が大半である。そして、定年後の豊かな生活と両立する「小さな仕事」は、多くの人にとって無理せずに長く働くことができる現実的な選択肢なのである。 定年後は、人との競争に勝ち残ることが望ましいという現役時代の先入観に囚われず、自身の幸せな生活と両立する仕事で無理なく稼いでいくことを考えていくことが肝要だと思う。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)