なぜ大迫は日本人初「2時間5分台」を実現したのか?その4つの理由
大迫のマラソン練習もタイムを追いかけるものではない。トレーニングの基本的な流れは同じで、「単純に過去と比較して、これまで以上のトレーニングができれば、レースでも前回以上の走りができる」と考えている。 「レースの進め方」についても特徴がある。 設楽悠太はペースメーカーがいなくても、自分ひとりで攻め込んでしまう大胆さがあるが、大迫の場合は集団の後方で、レースの流れに身を委ねている。集団後方につくと、急激なペースアップに対応できないデメリットがあるものの、ペースが安定しないときは、細かく反応せずに済む。集団の動きを見ながら、省エネで走っているのだ。今回のシカゴも集団から落ちた場面が何度かあったが、トップ集団のペースが落ちたところで、追いついている。言い方を変えると、あえて目立たないように走り、最終的にはどのレースでも最も脚光を浴びた日本人選手になった。 最後は「世界を見る目」だ。アメリカは日本人からすれば異国の地になるが、オレゴンを拠点にしている大迫にとっては自国の感覚に近い。しかも、シカゴの目玉選手だったモハメド・ファラー(英国)は元チームメイトで、ゲーレン・ラップ(米国)は現チームメイトだ。ファラーはオリンピックで二大会連続して5000mと1万mの長距離2冠に輝いた世界のスーパースター、ラップはリオ五輪のマラソン銅メダリストという米国のエースランナー。最近はさほど一緒に練習をしているわけではないというが、彼らと一緒に走っても、雰囲気に飲 まれることはない。むしろ、「いい練習ができればファラーやラップとも少しは戦えるんじゃないかなと思っています」と彼らと戦うことを楽しみにしていた。 大迫は国内でしか評価されない駅伝に明け暮れている日本人選手とはマラソンへの取り組み、考え方のスケールが違うのだ。だからこそ、日本人初の2時間5分台に突入できたと思う。しかも、今回はペースが安定せず、終盤は向かい風だった。 大迫のポテンシャルを考えると2時間4分台は現実的なターゲットになる。 次は来年3月の東京マラソンを予定しており、ペース的にもちょうどいい。しかも東京には設楽悠太も参戦を表明している。今度は“時計の針”がどれだけ進むのか。こんなにワクワクしているのは筆者だけではないだろう。 (文責・酒井政人/スポーツライター)