『しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム』豊田市美術館で 新印象派から現代美術まで、芸術とアナキズムとの関係を問う
芸術は、いまだ了解されていない認識や知覚の領野を拡張していく営みであることから、何かひとつに回収されてしまうことへの抵抗をあらかじめ含んでいるのではないか。そして、その営みは、制度化され、統治されることへの抵抗・闘争の姿勢である「アナキズム」になぞらえることもできるのではないか。こうした視点で企画された展覧会が、10月12日(土)から2025年2月16日(日)まで、愛知県の豊田市美術館で開催される。 【全ての画像】マルガレーテ・ラスペ《明日も、明日も、そしてまた明日も、スウィングさせる!》ほか アナキズムに芸術の本来的な力を認め、その可能性を問う同展に登場する作品は、約100点。アナキズムは「無政府主義」と訳されることも多いが、権威に異議を申し立てる自由な社会を理想とする思想とも言える。そのアナキズムと美術の関わりを示す出発点として、展示は19 世紀末フランスの新印象主義から始まる。絵具の混色を避け、すべての色彩を等しい単位で配置することで画面の均衡を図ったスーラらの方法論と、個々人の自由とその「調和」によるユートピア社会の実現をうたったアナキズム運動の思想に親和性が見られるのだという。 その後、紹介されるのは、第一次大戦と前後して、「モンテ・ヴェリタ(真理の山)」と名づけられたスイスのコミュニティに集ったダダやドイツのバウハウスの作家たち。第二次大戦後、資本主義とブルジョワ主義に反旗を翻し、日常の革命を試みた社会革命的な国際組織「シチュアシオニスト・インターナショナル」。ソ連時代の1976 年の結成から、野外や室内で「非公式芸術」としてのアクションを実行し続けてきたロシアの芸術家集団「集団行為」。さらにベルリンを拠点に、自宅での制作と自主展覧会を運営することで、日常の労働と作品の創造の境界に揺さぶりをかけたドイツの作家マルガレーテ・ラスペ。そして日本からは、複数の拠点をもち、移動しながら生活と制作と発表とを渾然一体として続けている大木裕之、分野にとらわれない人々や組織が集う共同スタジオ「コーポ北加賀屋」のメンバーたち、そしてアーティスト集団「オル太」が、同展のためにインスタレーション作品を制作する。 展覧会名には、「芸術と社会にどっぷりと関わりながらも軽やかに抵抗・逃走し、あえて『しないでおく』ことの可能性も含めて生き、創造する人々の実践を紹介する」という意図が込められているという。これまでにない、新たな視点をもった刺激的な展覧会となっている。 <開催概要> 『しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム』 会期:2024年10月12日(土)~2025年2月16日(日) 会場:豊田市美術館