ユン大統領は「張子の虎」に。戒厳令騒動後に待ち構える韓国社会の状況
戒厳令に踏み切ったユン大統領の心中
戒厳令が宣布されて、すぐに国会の議長が議員たちを国会に召集した。議員たちは警察と軍が国会議事堂の門の前で立ちはだかるなか、塀を乗り越えたりして国会議事堂のなかへ入り、戒厳令解除を190人中満場一致で可決させた。ここまで3時間ほどが経過していた。 戒厳令解除の決議案が可決されたのち、大統領は解除を発表することになっているのだが、なかなか発表されことなく、結局、戒厳令が宣布されてから6時間ほどで大統領の解除発表があった。 韓国政府の教育部(日本の文部科学省に当たる)は、夜中に「戒厳令になっても休校はない」としていたので休校を期待していた子供たちは通常通り通学し、在宅勤務を期待していた会社員もいつものにように通勤した。 街は一夜で通常の姿を取り戻していた。しかし、筆者の参加する国会議員会館で開かれる予定だった国際会議は、急遽、近くの会議場に変更になった。そして、誰もが予想していた通り、韓国株は暴落、為替レートもすべての外貨に対してウォン安となった。 今回の戒厳令宣布に関してはさまざまな憶測が飛び交っているが、時代遅れの判断としか言いようがない。戦闘服を着た兵士や、軍のヘリや装甲車は物々しいが、市民たちは「民間人に対しては何もできないだろう」と考えていた。 なぜなら、もしそんなことになれば、光州事件のような哀しい歴史となり、それに関してはずっと後々まで断罪されることになるからだ。実際、いまも5.18事件(光州事件)は人々のトラウマになっている。 ユン・ソンニョル大統領の人気は落ちる一方だったが、今回の戒厳令は彼を支持していた人さえも理解できないものだという。 だが、戒厳令宣布の後、すぐに軍が向かったのは国会議事堂と、選挙管理委員会のビルだったことで、少し彼の心中がわかったという右派の人たちもいる。普通ならメディアを統制するために放送局や新聞社を押さえるはずが、選挙管理委員会というのが少し奇妙に映るからだ。 しかし、右派の人たちはコロナ禍で行われた2020年の総選挙(4年に一度行われる国会議員選挙)が不正選挙だったと信じている。なぜなら、本選挙の開票では右派の議員が勝っていたのに、期日前投票の開票をすると右派の議員が負けてしまうケースが多く出てきたからだ。 そこで、選挙管理委員会の杜撰な投票箱の管理や投票用紙の書き換えなどが指摘された。さらに、選挙管理委員会の常任委員にムン・ジェイン(文在寅)前大統領が候補だった頃に付き添っていた人物が選ばれていたことなどが指摘されている。 だから今年行われた総選挙では絶対に不正選挙をさせまいと各投票所に監視カメラを勝手につけた政治系ユーチューバーが逮捕されたりもした。