【特集「やっぱりドイツ車が好き!」①】 ハイエンドサルーンの確固たる矜持を見た【BMW 7シリーズ × アウディ A8】
A8のPHEVモデルはシリーズを牽引する存在
アウディは電動化に関して、どちらかといえばメルセデス・ベンツ寄りの戦略を採る。すなわちBEVのトップレンジはタイカンと同じPPEアーキテクチャーを持つeトロン GTシリーズが担いつつ、トラッドなLセグメントニーズの汲み上げはA8の電動化で対応するという方策だ。 但しeトロン GTはスポーツセダン寄りの色合いが強いこともあって、A8の側に担わされた役割は重い。ちなみにシェアの高い中国ではホルヒのブランドでスーパーロングボディも展開されている。 日本ではショートとロング、2つのボディバリエーションを展開するが、今回の取材車両は60TFSI e クワトロとなる。従来の60TFSIは4L V8ツインターボを搭載していたが、電動化が推し進められる中、こちらは3L V6ツインターボを軸に8速ATとの間に136psを発生するモーターを挟み込んだPHEVで、システム総合出力は462ps、トルクは700Nmを発揮。 0→100km/h加速は従来の60TFSIにわずかに劣るが、そのぶんを補えるモーターのトルクとともに60TFSI e クワトロは17.9kWhのバッテリーを搭載、WLTCモードで最大航続距離54kmのBEV走行を可能としている。 要はS8を別とするA8のトップグレードはPHEVになるという、最近の欧州勢にありがちなグレード展開となるわけだ。この良し悪しについては人それぞれの判断になると思う。 だが走りについてはネガティブなことはまるで感じないほど2つの動力源の協調制御も洗練されている。この“そつのなさ”は実にアウディらしい。
A8の駆動システムは緻密に制御されわずかな隙もない
A8はSクラスや7シリーズといったライバルよりやや年配で、現在はモデルライフ後期の世代となる。ゆえにインフォテインメントやアンビエントなどの装備にちょっと事務的なところを感じなくもない。というより、20年以降に登場したSクラスや7シリーズの飛ばしっぷりが想定以上だったという見方もできる。 中国に代表される主力市場の嗜好がわかりやすい空間価値だったところを、いかに早くキャッチアップするか否かでその盛り方も変わっただろう。顕著に社会的な端境期である中、アウディもそこにちょっと揉まれた感はあるのかもしれない。 でもそのぶん、走りは複雑なメカニズムを丁寧に纏めていて、前述の通り余計なバリもなく精細度は非常に高い。BMWが繊細さであればアウディは四駆を完璧に手なづけた精密さ、そして応答の正確性がドライバビリティの素地にあるわけだが、最上位モデルのA8はそれだけではないむっちりと有機的な乗り心地の味わい深さも魅力として加わってくる。 A8からは7シリーズほどの真新しさは伝わってこないが、そのぶん図らずもアウディにとっては苦手な領域だっただろう、滋味のようなものが感じられるようになった。今となっては6ライトキャビンが特徴的なその佇まいも、ライバルより俄然オーセンティックでもある。 何より様式を重んじる方面のニーズが一番大きいLセグメントにあって、声高に主張せずとも静かないいものというA8の存在感は、世の中で当然求められるべきものだと思う。 (文:渡辺敏史/写真:井上雅行、佐藤正巳)