韓国45年ぶり「戒厳令」で見えた 軍民主化の副作用と半世紀経っても変わらない問題点
ただ、副作用も起きた。軍が政治の顔色をうかがう風潮だ。戒厳軍に加わった軍人らの証言によれば、尹大統領は24年夏には金竜顕大統領警護処長や呂寅兄軍防諜司令官との会合で、戒厳令について言及した。呂氏は「戒厳令はいけません、と止めた」と証言したが、最終的に戒厳令の宣布と、それに伴う軍の出動を食い止められなかった。 また、戒厳軍関係者が国会証言だけでなく、軍出身の国会議員のユーチューブに出演して、自身の行為を恥じ、泣いて許しを請う場面も生まれた。自衛隊関係者は「軍の士気を著しく下げる行為。軍全体を考えれば、ユーチューブに出演することなど、絶対にありえない行為」と語る。 一方、半世紀近く経っても変わらないものがある。人々の欲望を利用した「権力の私物化体質」だ。今回、尹氏が戒厳令について協議した軍関係者は、金竜顕氏や呂寅兄氏ら、ソウル・沖岩高校の同窓生たちだった。元々、政治家出身ではない尹氏は政財官界に幅広い人脈がなかった。主に沖岩高校やソウル大学法学部の同窓生、出身母体の検察出身者らを多数起用した。 ■イエスマンだらけ また、韓国では大統領選が近づき、「キャンプ」と呼ぶ候補者陣営が立ち上がると、元官僚や政党・メディア関係者、学者らが我も我もと集まってくる。本当に候補者を政策で助け、よりよい政治を目指す人も中にはいる。しかし、「権力の甘い蜜」に群がる人もいることも否めない事実だ。こうした人々は総じて、大統領のイエスマンと化す。逆らって、せっかく得たポストを手放したくないからだ。 尹氏が戒厳令を出した背景には、野党に国会運営の主導権を握られ、政府提案の法律や人事がうまく通らず、ストレスをため込んでいった事情がある。韓国政府関係者や専門家らの証言によれば、尹氏は進歩(革新)系の新聞やテレビには一切目を通さず、極右系の尹氏を擁護するユーチューブを好んで視聴するようになったという。 韓国では、15年ほど前から、政治的な主張や解説をするユーチューブが現れ始めた。2017年の朴槿恵大統領の罷免やその後に誕生した文在寅政権を巡る左右対立などで爆発的に増えた。有力な政治系ユーチューバーは支持する政治家の集会に現れたり、政治家のインタビューをしたりするなど、既存メディアに負けない影響力を持つ。