「放射」の権力と「包容」の権力──現代社会制度形成の原点・第一生命ビル
恨まない能力
ここまでくれば、この建築が単に機能主義的なモダニズムの作品ではないことが理解できると思う。 「第三帝国の匂い」 おそらくマッカーサーにその意識はなかったであろう。当時の米軍にとっては不倶戴天の敵である。しかし西洋人として、古代ギリシャ、ローマ以来の列柱というものの政治的な力は感じていたに違いない。さらにいえば、この列柱が皇居と全日本に向かって放射した戦後民主主義という権力は、第三帝国の権力と同調するところがあったのかもしれない。 占領軍の戦後政策の多くは、2・26事件の理論的支柱であった北一輝の「国家改造法案大綱」を踏襲しているという。北の思想がきわめて民主的なものだったことは複数の研究者が認めている。 それにしても、東京大空襲、広島、長崎の原爆投下と、ひどいことをされたものだが、隣国と比べて不思議なほど恨みを感じさせないのは、この列島に生きる人々の能力かもしれない。 マッカーサーは解任されるとき、日本国民の礼節と勤勉を賞賛した上で「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」と語った。筆者はこの言葉の意味がもう一つピンと来なかった。不本意な解任に対してまだ意欲があるという解釈がほとんどだが、米軍内で流行った歌の一節で「若い兵は死んでいく」というフレーズに対置されているという。筆者はこの稿を書いていて、多くの若者を死地に追いやった自分が生きたまま退役することへの忸怩たる思いが込められていたのではないかと考えた。 軍人とはそういうものだろう。 建築は死にも消えもしない。よく聴く耳をもちさえすれば、実にさまざまなことを語るものである。