トレーニングする大山（撮影・栗木一考）

　ソフトバンクのドラフト6位の大山凌投手（22）＝東日本国際大＝が17日のロッテ戦でプロ初先発する。ここまで6試合に中継ぎとして登板し、0勝0敗、防御率0.82の成績を残している。剣道一家に生まれながら、祖父、父のサポートを受け、練習に励んだルーキー右腕の少年時代とは―。 ■周東と万波…爆足VS爆肩！勝負の行方は…【動画】

◆親子が最も意識したのは「美しいフォーム」

小学生時代に試合で登板した大山（家族提供）

　大声が響き渡る中でも、表情一つ変えなかった。小学2年の夏、大山は父の栄幸に連れられて、剣道場にいた。栄幸は剣道の栃木県チャンピオンの経験があり、祖父の栄一も教士7段。まさに「剣道一家」だった。当然大山にも剣道をさせたいと思っていたが、興味を示さない〝ポーカーフェース〟に「こればかりはしょうがない」と栄幸も諦めるしかなかった。 　大山が野球を始めたのは、その直後。剣道一家は一転して野球に打ち込む息子を支えた。栄一は自宅の庭にネットやケージ、照明設備を自作。トラック運転手の栄幸は〝コーチ〟を務めた。深夜に仕事に出た父が夕方に帰宅してから練習スタート。5時間ぶっ通しで投げたこともあった。 　親子が最も意識したのは「美しいフォーム」。野球経験がない栄幸は、仕事の休憩中に車内で本や映像を見て勉強。中学1年で身長146センチと小柄だった大山に役立つように、工藤公康（ソフトバンク元監督）や桑田真澄（巨人2軍監督）ら身長以上にダイナミックなフォームの投手を参考にした。徹底的に固めたおかげで、今もフォームは大きくは変わっていない。

◆「プロ」を意識させた大投手の言葉

中学生時代の大山（家族提供）

　小学生時代に勝利を挙げたのは、県ベスト8に進んだ最後の大会だけ。高校進学後も決して有名とは言えなかった。それでも、親子にプロを強烈に意識させた出来事を忘れなかった。 　中学1年の時、野球教室に参加。講師の中に工藤がいた。教室終了後に「9番の子（大山）、ちょっと見たいんだよね」と多くの参加者の中で唯一個別指導を受けた。工藤から「ちゃんと体を鍛えて、好き嫌いなく食べたら150キロは出るよ」とアドバイスを受けた。224勝投手の助言を守って体も大きくなった大学時代、努力が花開く。 　福島県の東日本国際大2年の春。新監督に藤木豊が就任した。八戸大（現八戸学院大）で秋山翔吾（広島）を育てた指揮官。大山が個人面談であいさつをすると、座る間もなく告げられた。「おまえがエースだから」 　1年時は南東北大学リーグ戦登板3試合だった右腕に、藤木は〝一目ぼれ〟していた。評価したのは、よくしなる腕の使い方と顔の良さ。ある試合で打者に完璧にタイミングを合わせられて痛打を浴びた。全国大会では失投は命取り。心配する藤木をよそに、大山に動揺の色は一切ない。苦笑いしただけ。堂々とした姿にほれ込んだ。 　プロへの道はつかんだが、藤木は大山にあえて6位指名であることをよく話し、ハッパをかけているという。ホークスの大学、社会人出身の支配下指名では最下位。物おじしない精神力と親子でつくり上げたフォームを武器に、最後尾からエースへの道のりを描く。（鬼塚淳乃介） 【#16日のOTTOホークス情報】