スラップスケートOKで高速水着禁止の過去…ナイキ厚底シューズは“技術ドーピング”なのか、それとも技術革新なのか?
男女のマラソン界を席巻、先の箱根駅伝でも84%の選手が使用し区間新を連発したナイキ製の厚底シューズ「ヴェイパーフライ」の使用禁止を今月末にも世界陸上連盟が通達する見通しだとの報道が世界を駆け巡った。「今回は調査結果公表でそこまで踏み込まないのではないか」との情報もあるが、男子マラソンの世界記録保持者で、同シューズを履いた非公式レースで2時間を切る1時間59分40秒をマークした東京五輪の金メダル候補、エリウド・キプチョゲ(35、ケニア)は「ナイキシューズは『フェア』なものでスポーツ界はテクノロジーの進化を享受すべき」と反論。厚底シューズで2時間5分50秒の日本記録を出した大迫傑(28、ナイキ)は自身のツイッターで「ヴェイパーどうのこうのの記事に疲れている人多いはず。どっちでも良いからさっさと決めてくれーい!僕ら選手はあるものを最大限いかして走るだけ!それだけ!」と発信するなど、早くもアスリートを混乱させている。 もし本当に使用禁止が決定され、東京五輪でナイキの厚底シューズが消えるとなるとレースの行方と記録に大きな影響を与えることになる。果たして、本当にナイキの厚底シューズは”技術ドーピング”であり、使用禁止にされるべきものなのだろうか。 スポーツの歴史は、用具革新の歴史と言ってもいい。 過去にも“魔法“と呼ばれたスポーツ用具の出現はスポーツシーンにあった。だが、それらはすべて禁止されてきたわけではない。代表的なものは2つ。一つ目は長野五輪前年の1997年に登場し、スピードスケート界に大旋風を巻き起こしたスラップスケートだ。キックした瞬間に踵からブレードが離れ、バネで元に戻るという仕掛けのあるスケート靴でキックした瞬間の氷との接地時間が長いことでロスなく力が氷に伝わり、推進力が増して次々に記録が更新された。オランダのバイキング社で開発された靴で、足首への負担も軽減されることから、特に長距離になるほど効果があるとされた。オランダ勢が記録突破を続けたことで、日本を含めた各国の選手が、スラップスケートを手に入れて使用。長野五輪では、北朝鮮以外の多くの選手がこのシューズを使用し、500メートルで金メダルを獲得した清水宏保氏もスラップスケートをさらに独自に改良したものを使用していた。 このスラップスケートの登場の際も、踵を離れたブレードが元に戻る際に使われるバネの存在が、推進力の補助になっているのではないかとの議論があり、禁止も検討されたが、結局、国際スケート連盟は使用を許可。接触、転倒などの多いショートトラックでは、転倒時にケガをする危険性が高いため、選手の安全面を第一に考えて使用禁止となったが、現在でも、スピードスケートのトップ選手の間ではスラップスケートが主流となっている。 一方、対照的に禁止とされたのが、その10年後に水泳界に登場した“魔法の水着“スピード社の「レーザー・レーサー」である。