欧製ステーションワゴンの出発点 モーリス・オックスフォード・トラベラー ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ(1)
ステーションワゴンとして悪くない動力性能
シリンダーヘッドにアルミニウムを採用するなど、軽量化にも気は配られた。自社で開発・製造された4速マニュアル・トランスミッションも、ケースはアルミ製。車重は、ルーフが伸ばされたコンビでも1090kgに留まった。 最高速度は149km/h。0-100km/h加速は18.5秒と、実用性を求めたステーションワゴンとしては悪くない動力性能を得ていた。 それ以外の技術面も、特に先進的ではなくても、現代的に再解釈されていた。ボディはシャシーと一体のモノコック構造。前後にサブフレームが組まれ、機械的な振動を伝えないよう、フロント側にはゴムマウントが挟まれた。 サスペンションは独立懸架式。フロント側は、不等長のウィッシュボーンにコイルスプリング、ダンパーという組み合わせ。リアは、スイングアクスルにコイルスプリング、アームを介したダンパーで構成。安定した操縦性と、快適性が狙われた。 今回ご登場願ったイザベラ・コンビは1960年式で、現在はグラハム・マンダーズ氏がオーナー。美しいだけでなく、オリジナル度が極めて高い。現役時代は、高水準なモデルだったことを理解できる。 グレートブリテン島へ輸入したのは、ボルグヴァルトの英国ディーラー、メトカーフ&マンディ社。ロンドンの南東部、オーピントンに住んでいたエディス・フランシス・シア氏へ納車されている。
ディティールにも配慮されたスタイリング
マンダーズは、スウェーデンやドイツへ自動車旅行を楽しんでいるが、走行距離は10万3000kmほど。年式を考えると驚くほど短い。しかも、レストアも必要なかったらしい。定期的なメンテナンスだけで、2024年まで良好な状態が保たれてきた。 スタイリングは、少々賑やかな印象のオックスフォード・トラベラーと並ぶと、上品なシンプルさが際立つ。ボディサイドは適度に丸みを帯び、その上にスリムなウインドウが載っている。 ヘッドライト・ベゼルにはクロームメッキが施され、テールライトはフィンのように後端で立ち上がっている。ディティールにも配慮されたことが見て取れる。 サイドヒンジのテールゲートは、右側から付き出たレバーを引き下ろすと開く。リアシートの座面を持ち上げ、背もたれを倒せば、奥行きのあるフラットな荷室が姿を表す。ホイールアーチが膨らんでいるが、スクエアで使いやすそうだ。 ただし、イザベラ・コンビは3ドア。リアドアはなく、後席への乗降性は良くない。オックスフォード・トラベラーと異なり、荷物も横から引き出すことはできない。 前席側はモダン。ドアには三角窓を開くノブが備わり、ヒーターは運転席と助手席で別々に調整できる。シガーソケットを利用した、点検用のライトも備わる。 フロントシートはリクライニングできる。ダッシュボードは硬いベークライト樹脂製で、スピードメーターは横に長いストリップ・タイプ。それを囲むように、水温計や油温計、時計などが並ぶ。 この続きは、ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ モーリス・オックスフォード・トラベラー(2)にて。
サイモン・ハックナル(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)