秒間48コマ 映画の「映像革命」 『ホビット 竜に奪われた王国』を撮影したハイ・フレーム・レート3D
世界観に「入り込む」体験
しかし、こうしたHFR3Dの映像は、リアルで臨場感がある代わりに、ビデオ映像のように、ややもすると安っぽく見えてしまうとの声もある。 松崎さんは、フィルム映画と比較しながらこう語る。「我々がフィルム、映画と意識するものは24コマのちらつきや、フィルム独特の画質も含めて映画と認識していると思う。それがハイ・フレーム・レート3Dで撮影すると、どうしても生々しい、リアルな見え方になってしまう」。ピーター・ジャクソン監督も、ホビット1作目でのお客さんからの指摘で当然それは認識しており、2作目では相当調整したという。 ジャクソン監督は、映画を観に来た客に「中つ国(なかつくに)の中にはいりこんでほしい」のだという。「今までの24コマの場合は、額縁の中の映像を見ている感覚だったが、HFR3Dだと、その額縁が自分の後ろに来るような感覚」と表現している。つまり、自分がその世界の中に入り込んで映画を「体験」するような感覚ということだ。 ジャクソン監督や、「アバター」次回作で同じくHFRに取り組むジェームズ・キャメロン監督は、映画館で映画を見てもらうために、映画館でしかできない「体験」を提供することを目指している。松崎さんも「今まで劇場で見てきた3Dとは、かなり違うなと思っていただけると思う」と話す。
リアルさの追求は映画の宿命
次々に最新技術が登場する映画界は今後どうなっていくのだろうか。松崎さんは「リアルさ」の追求は映画の宿命的な欲求なのだという。 「映画の歴史は、一番最初はモノクロのサイレントで、絵だけを見る状態で始まった。それに音がつくようになって、画面が横に広がり、色がつくようになって、さらに音がモノラルからステレオになり、サラウンドがついて、サブウーハーがついて、というように少しずつ広がっていった。 一番有名な原初の映画映像に、リュミエール兄弟の駅に列車が入ってくる映像がある。それを見ていたお客さんは列車が本当に来ると思って、あわてて逃げていったという逸話があるが、映画とは運命的にそういうリアルな見世物というところから始まっている。そうすると、行きつくところはどうしたらよりリアルになるのか、ということになる。映画人が試行錯誤して、何十年かおきに3Dの波が来るのもその一つだと思う」 現時点でも、こうしたHFR以外に、昨年から日本でようやく導入された「ドルビーアトモス」という音響技術がある。これは、天井にもスピーカーが設置され、スクリーンの真横から壁を一周するようにサラウンドスピーカーがついているもので、まさにその場にいるような臨場感で音が味わえるのだという。また、まだ東京にはないが3Dの先の技術として「4DX」というものがある。これは、遊園地の乗り物のようなもので、イスが揺れたり、ミストが出てきたり、匂いが出てきたりする。 松崎さんは語る。「これらはなるべくリアルに近づけたいという思い。映画の進歩は、デジタルになって止まるということはなく、HFRにしてもドルビーアトモスにしても、どうしたらよりリアルな体験をお客さんに提供できるか、という映画界の努力の方向の一つ。そしてそこは、映画を家庭で見る、携帯で見るという楽しみ方では、決して得られない部分だと思う」