西側と中ロの狭間で迷えるジョージア...10月議会選は「戦争か平和か」を選ぶ、「最後のチャンス」に?
困難な戦いを強いられる野党
もっとも、ジョージアは何十年も西側との関係深化に努めてきたのに、EU加盟で経済が飛躍的に成長することもなければ、NATO加盟でロシアの脅威に対抗できる集団防衛体制を保証されることもなかった。 しかも、ロシアのウクライナ侵攻で「いざというとき、西側は頼りになるのか」という疑念も生まれた。ロシアはウクライナ戦争の前哨戦として、2008年にジョージアの分離独立派にテコ入れするため一部地域に軍を差し向けた。以後、ジョージアの国土の5分の1近くを占める地域にロシア軍が居座り続けている。 「(カフカス地方における)西側の戦略的な競争力は低下している」と、ジョージア政治研究所のコールネリー・カカヒアは指摘する。「この地域ではロシアに加え、中国、トルコ、イランが(覇権を争って)いる」 カフカス地方が中ロなどの陣営に取り込まれたら、その影響ははるかに広い範囲に及ぶと、政治アナリストらは警告する。 「ジョージアがロシアの影響下に入れば、戦略的にも象徴的な意味合いでも、アメリカとNATO、西側にとって大きな地政学的痛手となる」と、大西洋協議会ユーラシアセンターのローラ・リンダーマン上級研究員は言う。 「ジョージアはユーラシアの内陸国とヨーロッパを結ぶ国で、カスピ海のエネルギー資源をヨーロッパに運ぶ経由地点に位置し、エネルギー資源の調達先の多角化を目指す西側の計画にも重要性を持つ」 ジョージアを失うことは「プーチンの勝利であり、NATOと西側の恥となる」と言うのだ。 ジョージアの現政権は建前上は今もEUとNATO加盟を掲げているが、西側との関係はここ数カ月で急速に悪化している。「外国からの影響に対する透明性(外国の影響)」法案をめぐりジョージア国内で大規模な抗議デモが起こったが、治安警察が武力で抑え付け、法案は成立。 こうした成り行きを重大視し、EUは7月、ジョージアの加盟手続きを停止し、ジョージア軍強化のための3000万ユーロの支援も凍結した。 米国防総省がこの夏、ジョージアと毎年実施している合同軍事演習「ノーブル・パートナー」を延期したことも、米政府の不快感の表れだろう。米政府はまた「民主主義の弱体化に責任があるか加担した」ジョージアの政治家へのビザ発給を制限した。 西側からの批判にジョージアの夢は強硬姿勢を強めている。先日は、10月の選挙で勝ったら野党の統一国民運動を違憲とすると述べた。彼らが言うには、統一国民運動は外国が組織した「グローバル戦争党」なるものを支持している。 この組織はウクライナの戦争を長引かせ、ジョージアからロシアに新たな戦線を仕掛けようとしており、LGBTQ+(性的少数者)の権利など「えせリベラル」なイデオロギーを擁護している張本人だという。 また、ジョージアの夢は物議を醸したパリ夏季五輪の開会式を、ジョージアの伝統的な家族観と未成年者を守るために新たな法律が必要な理由だと有権者に訴えている。 「10月の議会選挙は一種の国民投票であり、戦争か平和か、道徳の低下か伝統的な価値観か、外部勢力への従属か独立主権国家か、ジョージア国民は最後の選択を迫られる」 そして、自分たちが再び与党として選ばれることによってのみ、EUおよびアメリカとの関係を再構築できると、ジョージアの夢は主張する。 これに対し野党陣営は、公正な選挙で自分たちが勝利できると主張する。彼らが強調するのは、ジョージアのEU加盟が国民に支持されていることだ。昨年末にトビリシの非営利団体、国家民主主義研究所が行った世論調査では、加盟支持は80%近くに達している。 多くのジョージア国民は、ヨーロッパのよりリベラルな社会政策に必ずしも賛同しないかもしれないが、EU加盟がもたらす移動、貿易、雇用、投資の自由を望む声は高まっている。 「問題は、ジョージアで機能している大規模な偽情報のメカニズムだ。彼らはメディアやチャットのチャンネルを持ち、インターネットを利用して、人々を洗脳するために大金を投じている」とワシュゼは語る。 ほかにも野党勢力が分裂状態であることなどジョージアの夢の優位を専門家は指摘する。同党の創設者でオリガルヒのビジナ・イワニシビリ元首相は国内で最も裕福な実業家で、首都を見下ろす鋼鉄とガラスの宮殿はジェームズ・ボンドの悪役の隠れ家にも例えられる。 「この国で選挙に勝つことは非常に難しい。約30万人の公務員が政府の影響下にあるため彼らを行政資源として悪用できる」と、カカヒアは言う。「さらにジョージア企業の80%が与党を支持している」 野党側は現政権に対する西側の措置を歓迎しているが、効果は疑問視している。「今やロシアとジョージアの夢のプロパガンダが社会に深く浸透しており、支持者にとって(西側からの)制裁は勇気の証しのようになっている」と、野党政治家のアレキサンドル・クレボーアサティアニは言う。「制裁はあまりに軽く、あまりに遅く感じられる」 反対派はジョージアの夢を親ロシアと呼ぶが、状況はもっと微妙だ。トビリシ市内で見られる反ロシアや親ウクライナの落書きは、ロシアに対する強い憎悪の証しでもある。 1801年にジョージアはロシア帝国に併合された。1917年のロシア革命後につかの間の独立を果たすも、ソビエト連邦の侵攻により数年で鎮圧された。独立を取り戻したのは91年のソ連崩壊後のことだ。