中高生も探究活動で不正、急務の「研究倫理教育」 「自分の研究は問題ない」勘違いで起こる不正も
「知的財産」への対応も必要な時代
18世紀の第1次産業革命から現代のIoT・AIに至るまで、人類の欲望に基づく社会の要請は時代とともに変化し、それを実現する科学技術は大きく発展を遂げてきた。本来は純粋な学問の追究が科学者の使命であったものが、今は科学の成果で社会に貢献することが強く求められるようになっている。 例えば、最近の公的研究費には、研究成果で日本の経済を再興することが暗に示されるようになってきた。最高学府であり教育・研究を主眼に置くべき国立大学の運営にも経団連の意見が反映され、産学連携の推奨や、企業で即戦力となるような人材の育成だけではなく、アントレプレナー育成までも求められるようになっている。 研究成果による起業は、以前は大きな研究成果を上げた教授が主体であったが、その担い手は若手研究者、さらに学生へと拡大してきている。そして、現在では大学入学前の生徒にまで広がっている。例えば、「東北大学発 地域課題解決 アントレプレナーシッププロジェクト」では、全国の高校生・高専生等を対象に、東北・新潟でのフィールドワークを通じてビジネス・アイデアを引き出し、そのアイデアを実行可能なビジネスプランとして落とし込むことで地域創生を図っている。 新しいビジネスプランには特許が要件となることも多く、中高生の研究成果発表においても、特許をはじめとした知的財産に対する理解が重要になってきた。中高生の場合、探究の授業であれ、部活動の成果であれ、研究成果を発表すること自体が非常に重要なので、発明を公表していないことを「新規性」として出願要件とする特許の考えとは相いれないものがある。しかし、技術革新と国際化が同時に進む時代では、中高生でも、研究不正などの研究倫理だけではなく、知的財産についてのあらましも学習することが望まれる。 研究倫理への取り組みの現状は十分とは言い難いが、国内の中高生向け科学コンテストや学協会主催のジュニアセッションでは、応募に当たり研究倫理テキスト学習を義務付けるなど、学校外からも取り組みが始まり、生徒そして教員へと徐々に浸透している。 アメリカで開かれる高校生を対象とした科学研究の国際大会「ISEF」を視察すると、参加者やその指導者らが、研究倫理・特許についても非常に熱心な様子を目にすることができる。このことは、生徒・教員らの社会とのつながりや知的財産についての意識が日本とは格段に違うことを示している。 世界には、自らのアイデアで大学院レベルの研究を発表し、アメリカの大学への進学や留学の奨学金獲得の機会と捉える者や、イノベーションの種として企業サポートを受ける機会と考える者もいるのが現実である。 APRINが作成した「中等教育向け教材」は、今の時代に求められる中等教育の研究倫理に加えて知的財産の初歩を誰もが学ぶことができるよう無料公開されているので、ぜひとも参考にしていただきたい。 【執筆者】 ・岩本光正(APRIN委員長/東京工業大学 名誉教授) ・進藤明彦(APRIN委員/鳥取大学 教育支援・国際交流推進機構 准教授) ・村本哲哉(APRIN委員/東邦大学 理学部 准教授) ・西條芳文(APRIN委員/東北大学大学院 医工学研究科 研究科長) 参考文献 ・STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進について(⽂部科学省初等中等教育局教育課程課) ・高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編(文部科学省 平成30年7月) ・高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編(文部科学省 平成30年7月、令和3年8月一部改訂) (写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/ PIXTA)
執筆:APRIN 中等教育系分科会・東洋経済education × ICT編集部