県職員64人が虐待関与の疑いなのに、懲戒処分は1人だけ 変わり始めた「もう一つのやまゆり園」が突き付ける重い宿題
入所者と一緒に園の外に出て、地元農家で農作業を手伝うといった地域貢献のアイデアも職員から出ているという。 一部の入所者は民間法人のグループホームに体験宿泊するなど、地域での生活に移ることも視野に入る。ある40代男性入所者はこれまでに4回、外部の法人を体験利用。特に問題は起きていない。ただ、地域での暮らしに不安が残る男性の父親は「いったん退所すると、何かあって『中井園に戻りたい』となっても戻れないのではないか」と複雑な心情をのぞかせる。 ▽「受け入れる地域社会を」 園の今後の在り方については、県の有識者チームが5月に「改革プログラム」を発表。園はこれまで重い知的障害や行動障害の人が長期入所する場だったが、今後は地域生活が困難となった人をあくまで一時的に受け入れ、地域に本人の居場所をつくる役割に転換するよう提言した。 定員140人の施設規模をまず60人に減らし、限りなく小規模化を目指すことも要請。県の直営では4年ほどで職員が異動するため、入所者との人間関係を築きにくいといった問題があるとして、「県の直営は限界だ」とも指摘した。事実上、県の施設としては廃止を求めたとも言える。
県は改革の実施スケジュールを盛り込んだ計画を7月中につくる方針で、改革プログラムを受け取った黒岩知事はこう話した。「施設の在り方以上に、地域社会の在り方が重要だ。この人たちを受け入れられる地域をつくらなければならない。非常に大きな宿題を頂いた」 ▽取材後記 現在、中井園では常勤だけでも約150人の県職員が働いている。もし施設を廃止するとなったら、入所者はもちろんだが、県は職員の行き先も探さなくてはならない。労力のかかる大仕事になる。 有識者チームは「県の直営は限界だ」と結論付けたが、県の担当者は「あくまで有識者の意見」との立場。直営として残したいとの意向がのぞく。処分を巡っても、職員の保身や県の組織防衛がにじみ、後味の悪さが残った。県には組織を守ることよりも入所者の幸せを第一に考えてほしい。