県職員64人が虐待関与の疑いなのに、懲戒処分は1人だけ 変わり始めた「もう一つのやまゆり園」が突き付ける重い宿題
▽丸刈りの頭に半円型の前髪 県は5月25日、「適切な措置を講じなかった」などとして園長(6月1日付で他施設へ異動)を減給10分の1(3カ月)とする懲戒処分を発表。 そのほか、虐待に関わったとして職員7人、監督責任として県の局長ら15人を訓戒や厳重注意とした。黒岩祐治知事も自身の給料を減額する条例改正案を議会に提出した。ただ、「行為者を特定できなかった」「本人が虐待の意図を否定した」などとして処分を見送ったケースもあった。 例えば、男性入所者の前髪だけを残して頭を丸刈りにした事例では、行為者の職員が「理髪の際に前髪が残ってしまった。嘲笑の対象にするためではなかった」と話したことから、処分はしなかった。 だが、共同通信が入手したこの入所者の写真では、大きな半円型に前髪が残されており、「うっかり残ってしまった」という説明には疑問符が付く。そもそも、本当に「うっかり」だったのなら、すぐに刈り取れば済む話だ。
元職員から「こんな軽い処分で済むのか」と疑問の声が出ているほか、県の調査委員会の委員も「虐待行為が特定された職員が懲戒処分されず、園長だけというのはアンバランスだ」と違和感を口にする。 ▽「意識が変わってきた」現場の職員たち 数々の問題が明らかになってから約2年がたち、今、施設で入所者たちはどうしているのか。 5月下旬、園を訪ねると、それぞれの部屋から出てきて軽作業やリハビリをする姿があった。以前は1日20時間以上、外側から施錠された部屋で過ごしていた男性も荷台を押して物を運ぶ様子が見られた。 園がこうした「日中活動」を積極的にするようになってから約1年。外部の民間法人から定期的に園を訪れている「支援改善アドバイザー」3人に話を聞くと、「入所者も職員もうれしそうな様子が増えた」と言う。 アドバイザーの1人で社会福祉法人理事長の中西晴之さんはこう話す。「『環境や働きかけ方次第で、入所者にもこんなにできることがあったんだ』と職員が気付き始め、意識が変わってきた」