県職員64人が虐待関与の疑いなのに、懲戒処分は1人だけ 変わり始めた「もう一つのやまゆり園」が突き付ける重い宿題
神奈川県の「中井やまゆり園」という県立の知的障害者入所施設で昨年、県職員による多数の虐待疑いが明らかになった。関わったとみられる職員は64人に及ぶが、県が懲戒処分にしたのは園長1人だけ。虐待したとして懲戒処分を受けた職員はゼロで、隠蔽していた幹部職員も口頭訓戒といった軽い処分で済まされた。 一方、施設の現場では、人間らしい生活を取り戻そうと改善に向けた取り組みが進む。ただ、有識者は「施設を良くすれば、それで済むという問題でもない」と指摘する。重い知的障害や自閉症のある人を地域社会が受け入れるようにならなければ、根本的には解決しないからだ。殺傷事件が起きた「津久井やまゆり園」とともに、もう一つのやまゆり園は私たちに重い宿題を突き付けている。(共同通信=市川亨) ▽「刑事事件では?」の声も、告発はせず 中井やまゆり園は神奈川県中井町にあり、自閉症や重度の知的障害がある人を中心に約90人が暮らしている。
2016年に障害者19人が殺害される事件があった県立「津久井やまゆり園」(相模原市)と名前が似ているが、津久井園は社会福祉法人の運営。一方、中井園は県の直営で、働いているのは県の職員だ。 2021年以降、職員による虐待や隠蔽の疑いが浮上し、県は昨年3月、有識者による調査委員会を設置。今年5月、最終報告書を発表した。 報告書によると、虐待が疑われたケースは25件あり、うち9件が虐待と認定された。8件は「不適切な支援」、残り8件は「事実が確認できない」とされた。虐待9件で関与が疑われる職員は64人。不適切な支援を含めると、71人に及ぶ。 虐待と認定された9件は次のような内容だ。 ・男性入所者の肛門にナットが入っていた ・天井が便まみれの部屋で生活させていた ・顔を平手打ちし、拳で額を殴った ・スクワットを数百回させた 職員や委員からは「刑事事件に相当する」との声も出ているが、県は「総合的な判断」として告訴や告発はしていない。虐待が疑われる25件については警察に「相談している」と説明するものの、「通報」「届け出」といった言葉は避けている。