セ打率1位、ヤクルトのサンタナがイチローから学び、導いた結論
プロ野球セ・リーグは6月9日の交流戦を終えた時点で、規定打席到達者のうち打率3割をクリアしているのがヤクルトのドミンゴ・サンタナ外野手(31)ただ一人となった。同日の日本ハム戦では打線が5安打と苦しむ中、2本の安打を重ね、打率は2位以下を引き離す3割1分7厘に。ここまで9本塁打と長打力も兼ね備え、強打者の指標とされるOPS(長打率と出塁率を足した値)も0.903でリーグトップに立っている。特筆すべきは2ストライク後の打率の高さだろう。追い込まれてしまえば、三振の可能性が生まれるため、打率は総じて低くなるもの。それでもサンタナは、2割9分3厘と高い数字をマークしている。(時事通信運動部 安岡朋彦) 【写真】逆転の満塁本塁打を放つマリナーズのサンタナ=2019年3月20日、東京ドーム ◆2ストライクから高打率 本人にこの質問をぶつけた5月には、2ストライク後の打率が3割5分を超えていた時期もあった。口数が多いタイプではない。データを示し、要因を尋ねると「すごいね。理由? 分からない。幸運としか言えない」と短い答えが返ってきた。 運だけで結果が残せるはずはない。質問を重ね「配球を読んでいるから打てるのでは?」と聞いた時に、4度も「ノー」と否定した後に、こう付け加えた。 「相手のミスを待っているだけ。失投が来た時に、それを前に飛ばす努力をしている」 サンタナが「ミスを待つ打撃」の具体例をいくつか挙げる。「高めの真っすぐが良い投手の時は、低めを狙う。高めに釣られてはいけない。フォークが良い投手ならば、浮いた球を待つ。低めのフォークは結局ボールになるからね」。そう語ると、「ただ、それが難しい。打撃はとても難しい。フォームうんぬんよりも、精神面が物を言う」と続けた。 ◆「若い頃よりも賢くなった」 サンタナは開幕から好調を維持し3、4月の月間最優秀選手(MVP)に選ばれている。その記者会見で「若い頃よりも賢くなった」と語っていた。その真意は、技術面ではなく、精神面にあるという。 「若い頃は、自分がコントロールできない部分でも、うまくいかなければ悩み、考え過ぎることがあった。年を取って『しょうがないな』とか『自分のコントロール外だな』と割り切ることができるようになったことが大きい」 安打が出なかった試合翌日の本人の言葉が象徴的だった。5月21日のDeNA戦では150キロ超の速球を投げ込む左腕アンソニー・ケイの前に4打数無安打に終わった。次の日の試合前に、こんなことを話している。 「きのうの投手は良い投球をしていた。本当に良い球が来ていて、失投は多くはなかった。良い球が来たんだから(打てなかった理由は)打撃フォームとか、そういう問題ではない。脱帽して、次の打席とか、次の試合で頑張ればいい。考え過ぎてはいけない。次もまた相手のミスを待てばいいんだ」 ◆イチローと同僚、東京ドームで満塁弾 ドミニカ共和国出身のサンタナは、2014年にアストロズから米大リーグにデビューし、ブルワーズを経て19年にはマリナーズでプレーした。同年春の日本での開幕シリーズを最後に現役を引退したイチローとは短期間ながら同僚だった。 イチローの花道となった3月20、21日に東京ドームで行われたアスレチックスとの公式戦に、サンタナは2試合とも先発出場。20日の開幕戦では逆転の満塁本塁打を放ち、お立ち台に上がっている。 マリナーズの選手たちは、イチローから指導や助言を受ける機会に恵まれている。サンタナの記憶には「相手投手の最高の球を打て」というアドバイスが強く残っている。イチローは「一度その投手の最高の球を打てば、次の対戦から優位に立てる」と説いていたという。 ◆謙虚で実直、たどり着いた答えは… その理論には納得したが、イチローは日米通算4367安打を誇る希代の好打者。「あれはとてもハードな(実践が難しい)アドバイスだった」というのがサンタナの本音だ。決め球になるような球種が複数ある投手だと、当然ながらその難易度は一気に上がる。 「俺はイチローではない。皆が皆、イチローになれるわけではない。俺たちは最高のボールではなく、失投を狙っていかないといけない。イチローがどういうことを考えているのかを知ることができたのはよかったが、あれはイチローだからうまくいくことだと思う」 割り切って、「最高の球」ではなく「失投」を狙う。謙虚で実直なサンタナだからこそ、たどり着いた結論とも言えるかもしれない。 5月に一時は3割5分を超えていた打率が、6月6日には3割2厘まで落ちた。それでも、すかさず7日に3安打、9日に2安打を放って持ち直した。9日の2安打のうち1本はフルカウント、もう1本は2ボール2ストライクから。いずれも浮いた変化球を仕留めた安打だった。