「商業的価値が低いため、あまり栽培されていない」エンドウ豆からできた「ジン」が世界中で注目のなぜ 仕掛け人は女性醸造家、蒸溜法は無償で公開も
■アンガス地方のクラフト蒸溜所 スコットランド東海岸のアンガス地方に、革新的なアプローチで持続可能なスピリッツ造りを展開しているクラフト蒸溜所がある。その名はアービキー蒸溜所(Arbikie Distillery)。 【写真で見る】売り物にならない規格外のジャガイモを原料にしたウォッカ ここは意外な作物を原料にした、世界初とされる“クライメートポジティブ”なジンとウォッカを開発し、大きく注目されている蒸溜所なのである。 二酸化炭素の排出量と吸収・削減量を同レベルにするのが、カーボンニュートラル、またはカーボンゼロ。
それに対し、排出量より吸収・削減量を多くするのが、クライメートポジティブである。地球の未来を危うくしつつある気候変動(クライメートチェンジ)に対し、ニュートラル(中立)ではなく、ポジティブ(積極的)な影響をもたらす取り組みだ。 【写真で見る】意外な作物を原料にした、世界初“超エコなジンとウォッカや、それらを手がける蒸溜家たち(全8枚) 彼らはどのようなスピリッツを造り出しているのか。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」会員である筆者が取材した。
アービキー蒸溜所は、東京ドーム約174個分に相当する2000エーカーの家族経営農場の中にある。 何世代にもわたってこの地で農業を営んできたスターリング家の3兄弟が、2013年に創設した独立系クラフト蒸溜所だ。スコットランドのケルト系先住民の言語、ゲール語で「自然」を意味する「Nàdar(ナダー)」という銘柄で販売している。 ■畑から一貫したスピリッツ造り ほとんどの蒸溜所が外部から調達したベーススピリッツでジンやウォッカを造っているのに対し、アービキーのベーススピリッツは自家製。しかも、原料は自家農場の作物である。
ジンの香りづけに欠かせないジュニパーベリーや、ほかのボタニカル(香草類)も、自分たちの畑で採れたもの。ボトル詰めも蒸溜所内でやっている。つまり、フィールド・トゥ・ボトル(畑からボトルまで)のスピリッツ造りを展開しているのだ。 自家農場があることの重要な利点は、原料のあらゆる側面を自分たちで管理でき、トレーサビリティを完全保証できること。そしてそれゆえのプレミアム性を正当に主張できることだ。 商業的農業を営むアービキーの農場は、もともとスーパーなどに作物を出荷している。外観やサイズなどが出荷先の基準を満たさない規格外作物は、多くの場合、廃棄されたり、周辺の一般家庭に安価で提供されたりしていた。