財務省改ざん問題「佐川氏喚問」後も残る謎 坂東太郎のよく分かる時事用語
証人喚問で分かったことと残る論点
佐川氏証言をどこまで信用するかによって、証人喚問での説明の納得度は変わってくるでしょう。佐川氏は、首相や夫人、官邸などの指示を否定し、「理財局の国有財産部局の個別案件だ。理財局の中で対応する。財務省の官房部局に報告、相談するとか、首相官邸に報告することはない」と述べているのです。そういうことなんだろうと思う人には「残る論点」もありません。 反対に「どう考えてもおかしい」と感じれば、証人喚問前と同じ疑問がそのまま論点として残り続けます。 政治家、官僚、産業界などの経営者は、しばしばジャンケンに例えられます。政治家や首相をトップとする官邸などを「グー」としたら、官僚は「チョキ」。官僚として上り詰めた地位が外務省と法務省を除くと事務次官。機構上、その上に置かれる政務官、副大臣、大臣(政務三役)は政治家が大半を占め、任命権は首相が握っています。国会議員は選挙で選ばれているので、選ばれていない官僚より上なのです。この時点でチョキ(官僚)はグー(政治家)にかないません。 加えて現在では、内閣人事局が官僚の幹部人事を一元管理し、首相や内閣官房長官も人事に直接関わることができます。内閣人事局長を内閣官房副長官が兼務し、上司が官房長官。官房長官も国務大臣だから任命権は首相にあるのです。官僚の世界は「人事が万事」。任命権者ににらまれたら「おしまい」と恐れるのは自然でしょう。だから政治家から指示や何らかの意向が示されれば従おうとし、その事実の露見が政治家にとって不都合であれば隠そうとする方向になりやすいのです。 結局、全容解明は司法に委ねる以外に難しそうです。ただそれも「起訴されたら」という条件付き。何らかの罪での立件を検察があきらめて不起訴としたら、検察審査会による「強制起訴」以外に刑事事件として法廷の場で明らかにする機会はありません。
森友学園問題での一連の疑問
2017年3月の証人喚問で籠池被告が述べたところによると、定期借地契約の期間を延長できないかと伝えるため、2015年10月に昭恵夫人の携帯に電話して留守電に伝言を残したら、「内閣総理大臣夫人付」政府職員の谷査恵子氏から「財務省本省に問い合わせた。現状では希望に沿えない」「引き続き当方としても見守る。本件は昭恵夫人にも既に報告した」などと書かれたファクスが届いたといいます。ファクスには「平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中」との文言もありました。この頃、夫人は建設中の新設小学校の名誉校長へ就任しています。籠池被告は土地の大値引きには「神風が吹いた」とも語ってみせました。 削除前の決裁文書には、昭恵夫人が籠池被告に「いい土地ですから、前に進めてください」と言ったという記載があった点に関して、安倍首相は「妻に確認した。言っていない」と否定。対して、現在拘置所に閉じ込められている籠池被告は、接見した野党議員に「確かに言った」と語っています。夫婦間で確認しても客観的な証拠にならないし、かといって籠池被告は身柄を勾留されているので自ら公に発言もできず真相は藪の中。 「8億円ダンピングが行われた理由」に首相夫人の関与があったのかどうか。籠池被告は学校法人トップだったので民間企業の経営者とは異なりますが、先のジャンケンでいえば「パー」の立ち位置です。許認可権を持ち、規制当局にもなる省庁のエリートたる官僚(チョキ)にはかなわないので、献金や票の取りまとめなどで恩を売れるグー(政治家)の力を借りるという構図は過去にもよくありました。 これが首相自身や他の政治家であれば、場合によっては疑獄事件へ発展しないでもないけれど、昭恵夫人は公務員でも政治家でもありません。夫人の言動を官僚が気にした「忖度」があったとしても、法的に昭恵氏が裁かれる可能性は低いでしょう。ならば犯罪になり得る改ざんなどしなくてもいいはずですが、首相の「私や妻が関与していれば首相も国会議員もやめる」答弁があるので、“夫人の関与を認めたら首相を窮地に追い込むと官僚が案じた”というストーリーが現実味を持ち続けるのです。端的に申せば首相の発言は本人にとって余計でした。 なお接見で籠池被告が「財務省職員から身を隠すように指示された」と述べた点に関して、佐川氏は証人喚問で「全くそういうことはしていない」と全面否定しています。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など