なぜこれほどまでの失態が…防衛省の前代未聞「200人大量処分」で明らかになった「組織的犯罪」の根本原因
逮捕は防衛大臣に報告されなかった
防衛省は今夏、特定秘密の取り扱い違反や潜水手当の不正受給、パワハラなどで200人を超す自衛官と職員を大量処分した。すでに報じられている海上自衛隊と川崎重工業との癒着疑惑の解明はこれからで、長年の膿が一気に噴き出していると言っていい。 【写真】参考にすべき、あの防衛庁長官「驚愕の胆力」と情報伝達・意思決定システム しかも潜水手当の不正を巡っては、木原稔防衛相に隊員が逮捕されていた事実が未報告だったことも判明、政治が自衛隊を統制するシビリアンコントロールを揺るがす事態となっている。 なぜ自衛隊を指揮・統制する防衛相に重要な情報が上がってこないのか――。そこには自衛隊を取り巻く状況や直面する危機について、防衛省全体として情報を共有する明確なシステムが存在していないという欠陥が浮かび上がっている。 今年度末には陸海空自衛隊を一元的に指揮する常設の「統合作戦司令部」が発足する。前代未聞とも言うべき今回の不祥事を機に、政治が自衛隊をコントロールするシステムの構築を急がなければならない。
潜水手当の不正受給のどこに問題が
潜水手当の問題では、今回の不祥事の中で、11人が懲戒免職、48人が停職になるなど最も重い処分が下されているが、その内容は、記録が残っている2017年4月から22年10月までの間に、架空の訓練を申告したり、訓練時間を水増ししたりするなどの手口で、総額約5300万円をだまし取っていたというもので、組織的な犯罪にほかならない。 その経緯は、まず22年9月に内部で不正受給の疑いが浮上し、海自が調査をスタートした。次々に不正受給が明らかとなり、翌23年11月、自衛隊の捜査機関である警務隊が詐欺容疑で海自の元ダイバーら4人を逮捕した。4人はその後、横浜地検に送致されたが、初犯であり、詐取した全額を弁済したとして不起訴(起訴猶予)処分となっている。 「なんで俺たちだけが……」という声が漏れてくるように、まさに長年の悪しき慣習が露見したわけだが、問題は、2年近くにわたってこれだけの不正を調査し、把握しておきながら、防衛省は前代未聞の大量処分を発表した7月12日まで一切公表しなかったことだ。しかも隊員が逮捕された事実について木原防衛相への報告はなく、野党による同省への聞き取り調査で発覚するなど省内の情報共有体制はボロボロだ。 その理由として、同省は訓令で、防衛大臣は組織の秩序を維持するため、警務隊を指揮監督するとしているが、同隊が自衛官を逮捕する場合には大臣の承認は不要で、逮捕された隊員が所属する長に逮捕事実を報告することしか定められていないからだ。 だが、複数の隊員が公金を詐取した容疑で逮捕されるといった組織的な不正行為が、組織のトップに報告されないなどということは、企業などではあり得ないことだ。 今回の問題を受け、同省は大臣への報告の仕組みを見直し、警務隊による隊員の逮捕は原則公表する方針を示している。隊員の逮捕についてはそれでいいかもしれないが、そんな弥縫策を講じても、防衛省という組織として重要な情報を共有する仕組みが不完全だという事実を直視しなければ、同じようなことを繰り返すだけだ。