世界の名建築を訪ねて。国際的建築家集団MADによる延床面積5万8,500平米の「衢州市スタジアム」/中国浙江省
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載18回目。今回は、中国・浙江省(せっこうしょう)にある、延床面積5万8,500平米という広大さを誇る「衢州市(くしゅうし)スタジアム」(設計:MADアーキテクツ)を紹介する。
従来のスポーツ建築とは一線を画す「衢州市スタジアム」
中国の浙江省にある70万平米の巨大さを誇る衢州市スポーツ・パークの中心施設として、MADアーキテクツがデザインした「衢州市スタジアム」が竣工した。衢州市は上海の南西側約400kmにあり、その東側と西側は緑濃き森林に覆われている。建物のうねった形態は遠望する山並みを反映したものであり、他方、建物の足元周りにおける盛土部分のランドスケープ・デザインはユニークで面白い。 「衢州市スタジアム」は延床面積5万8,500平米もあり、観覧席は30,000席という大きさにも関わらず、周辺ランドスケープより突出したオブジェではなく、それに連続しているようにデザインされている。 MADはスタジアム・グラウンドを、都心に近いダイナミックなアスレティックかつレジャー的なレクリエーション的公園スペースとして考えており、また人間と自然の精神的なコネクションのための場とも考えている。MADにとって、「衢州市スタジアム」は従来のスポーツ建築とは一線を画す建築なのである。それは自然に溶け込み、人々が集まりスポーツ精神をシェアすることを歓迎する、ランド・アートとして考案されたものなのである。
巨大なキャノピー(天蓋)の秀逸なデザインに脱帽
徒歩でアクセスするビジターは、8つあるエントランスのひとつからスタジアムのキャノピー(天蓋)に至るが、それは大波のように頭上を覆う2重曲面のサーフェスとなっている。巨大なキャノピー全体はわずか9箇所で地上から支持されているだけで、支持部分同士のスパンは最大95mにも及んでいる巨大さである。 スタジアムを支えている60本のコンクリート製の壁柱は、木目調の滑らかなコンクリート・シート壁で構成され、それが温もりのあるテクスチャーを生み出し、インテリアとエクステリアの境界を曖昧にしている。 キャノピーは巨大なスティール・フレームで構成されているが、非常に軽やかに見えるのは下半分が光を通すフッ素樹脂の膜で覆われているためである。これは微穿孔(小さな穴)が穿たれており、スタジアム全体の音響効果を上げている。キャノピーの上半分はより緻密なフッ素樹脂で覆われ、雨が観覧席に入るのを防いでいる。
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