ドジャースのロバーツ監督と大谷翔平。現地時間10月5日からポストシーズンに臨む photograph by JIJI PRESS

NHK解説者の武田一浩氏(元日ハム、ダイエー、中日、巨人)による大谷翔平の9月総評。大谷の今シーズンの成績を見て、武田氏は「神に選ばれている」と語った。【全2回の前編/後編も公開中】 【変わりすぎ写真】「ガリガリだったエンゼルス時代」→「大谷のう、腕が…“まるでハルク”」＆“テレビに映らない”大谷翔平…ナンバー撮影の現地最新カットで一気に見る ◆◆◆ 　ドジャース移籍1年目の大谷翔平のシーズンが終わった。地区優勝を果たしたドジャースは現地時間10月5日からポストシーズンを迎えるが、通常のシーズンで大谷は伝説的な成績を残したと言えよう。 　今季の打率は.310で197安打、54本塁打、59盗塁、130打点。前人未到の54-59を達成し、打点と本塁打の二冠を獲得。盗塁はイチローを抜いて日本人シーズン最多数を記録。首位打者のルイス・アラエス(パドレス)に4厘差に迫るなど打率でもリーグ2位だった。この成績について武田氏はこう語る。 「すごすぎて褒めるしかありません。終盤のマーリンズ戦では6打数6安打3ホームラン、10打点など無双状態でしたからね。僕はプロの世界に30年以上いますが、そんな数字は初めて聞きましたよ。僕も中継で解説のしようがないですよ。『すごいですね』しか言うことがないのですから」 　武田氏はかねてより、「今シーズンの大谷は本塁打王と打点王はカタイ」と予言。それと同時に「あとは打率をいかに残せるか」という指摘もしていた。その予想通り、8月の中旬には3割を切った。終盤で肉薄し最終戦のロッキーズ戦では「5打数4安打で同率首位打者」などと周囲が騒ぎ立てたが、4打数1安打に終わり、4厘差で首位打者には届かなかった。

「（アラエスの数字）知らないことはないはず…」

　その試合後、大谷は「(アラエスと)どのくらいの差があるのかとかもちょっとよくわかっていなかったですし」と日本の熱狂などどこ吹く風だった。 「大谷はああ言っていましたけど、知らないことはないと思いますよ。ただ、彼がそれをプレッシャーに感じていたかはわかりません。普通の野球選手なら、『ここで首位打者をとれば、次の契約で年俸が上がるぞ』『FAで高く評価してもらえるぞ』などと気負ってしまいますが、彼はそんな次元じゃないのでね。純粋に世界で一番野球が上手くなりたいという感覚なんでしょう。そのために、どんな状況でもチームのために自分のバッティングをするだけだと思っている。実際、50-50を達成してからも、首位打者がかかる試合もいつも通りホームランを狙うようなバッティングでした。むしろパドレスが追い上げてきて、優勝争いをするようになってからまたギアと調子が上がりました。彼は緊張感やプレッシャーがあるほど奮起できるんでしょう」 「グラウンドにはゼニが落ちている」とは名将・鶴岡一人の言葉で、かつてのプロ野球選手なら野球で稼いで高級車などの贅沢品を購入することを是としていた。しかし、大谷はそんなことは目もくれず、ひたすら自分の技術向上とチームの優勝に邁進している。それが今シーズンは最も顕著にあらわれた。 「どういう感覚なのか脳の中を見てみたいね。彼のストイックさに、みんなついていけないじゃん。野球が純粋に好きで、今でも野球少年なんだろうね。小学生くらいの純粋な野球少年が誰よりも野球が上手い。この感覚を持ち、努力する才能もあって結果も出せる。大谷は神に選ばれた男だよ。我が子は、大谷みたいな子どもに育てたいよね」