第三十五回 「60歳まで投げられる」名伯楽・権藤博が語る石川雅規の凄さ/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
「自分の生き様を示すピッチングを見せてほしい」
かつて、小久保裕紀が侍ジャパンの監督だったことがある。このとき権藤は、小久保に請われてピッチングコーチを務めた。その際に、「石川を代表入りさせよう」と進言したという。 「世界の舞台において、石川の技術は面白いと思ったからです。あの緩いボールがあるから、ストレートも落ちるボールも効いてくる。それは、メジャーリーガーにも通用する可能性がある。WBCでも通用すると思ったんです」 結局、実現はしなかったが、権藤はかねてから石川の「居合斬り投法」を高く評価していたのである。しかし、23年シーズンは2勝に終わり、24年は9月12日時点ではわずか1勝しかしていない。石川が目標としている200勝までは残り14勝となっている。現在の石川についてどう見ているのか? 少し考えた後、権藤はゆっくりと口を開いた。 「先のことなんて考えなくていいんじゃないですか……」 その口調には「現実的にはちょっと厳しいのではないか?」というニュアンスが含まれているのだろうか? 続く言葉を待った。 「……本人だって、まさかここまでやれるとは思っていなかったはずです。今、彼に求めたいのは、“いかに、自分の生き様を示すことができるか?”ということです。“200勝は無理だ”とは言いません。でも、そこに目標を置くよりも、“1試合、1試合、自分の生き様を見せること”を目指してほしい。彼の場合はすでに、《200勝》という数字以上の実績を挙げているんです」 決して「200勝は無理だ」とは思わない。けれども、「打線との巡り合わせで勝つこともあれば、負けることもある」と、権藤は繰り返す。 「勝敗については巡り合わせがあるから、自分の力でどうにもできない部分があります。でも、マウンドで自分の生き様を見せることは毎回できます。彼の場合は、“今も戦い続けている”という姿勢を示すこと。すでに今でも実践しているけれど、これからも示し続けること。勝つとか、負けるとか、すでに超越した存在なんです」 類を見ない負けず嫌いである石川は「投げるからには全部勝ちたい」と口にしている。しかしその一方で、球界の大先輩である権藤 は「これからも自分の生き様を見せるピッチングをしてほしい」と語る。球界のレジェンドから見れば、石川は「勝つとか、負けるとか、すでに超越した存在」なのかもしれない。しかし、現役を続ける限り、石川が目標とするのは「投げる試合は全部勝つ」ことであり、その先にある「200勝」という大目標だ。 「私は石川に期待しています。この先、彼がどんなピッチングを続けるのか? それを見届けたいと思っています」 石川の今後について、「それは自分自身で決めること」と権藤は言う。その上で、「彼はまだ試合を作ることができる。それができる間は1年でも現役を続けてほしい」と語る。それが、権藤博が石川に送る心からのエールだった。 (第三十六回に続く) 写真=BBM
週刊ベースボール