アングル:ペルーで金の違法採掘規制、人身売買やマネロンの温床
Dan Collyns [リマ 29日 トムソン・ロイター財団] - ペルー政府は、金鉱山の違法採掘を取り締まる新法を成立させる計画だ。専門家によると、違法採掘はゆすりや人身売買などの犯罪をあおってきた。 11月下旬には、新法に抗議する数千人の金採掘労働者が首都リマ中心部に陣取り、主要道路を封鎖した。 政府はその前週、現行の鉱業合法化登録(REINFO)制度に代わり、最大50万人の合法・非合法採掘業者を迅速に正規化することを目的とした法案「小規模・零細採掘法(MAPE)」を議会に提出した。 環境専門の弁護士、セザール・イペンザ氏は、登録制度によって「違法な採掘業者が罪を問われることなく操業を続けられている」と言う。登録されれば「刑事責任を免れ」、司法制度による捜査や訴追が不可能になるからだ。 REINFOはこれまで数回延長されており、イペンザ氏によると10年以上にわたり採掘業者を保護する役割を果たしてきた。金鉱業は強大な権益を持つゆえに「議会は常に非公式で非合法な採掘業者を支持してきた」という。ペルーは南米で最大、世界で第7位の金生産国だ。 MAPEは小規模業者に対し、REINFOが失効する今年末以降、事業要件を満たして正規化するための猶予期間を6カ月間設けている。しかし業者側はREINFOを2年延長するよう要求している。 現在登録している採掘業者8万4434社のうち、生産登録や納税者番号の使用など、正式な業務要件を満たしているのはわずか21%。残りの79%は要件を満たしていないとして採掘許可が停止されている。 2012年に登録制度が開始されて以来、正規化手続きを完了して税金を納め、融資を受け、有毒な水銀を使用しないクリーンな採掘技術を採用している業者は2081社と、全体の2%にとどまる。 新たな法案は、非合法採掘業者の規制を求める市民社会や同国ビジネスエリートからの圧力の高まりを受けて策定された。しかし批判派は、議会が違法な金採掘業者を訴追から守ろうとしていると非難している。 ペルー議会のエドゥアルド・サルワナ議長はトムソン・ロイター財団に対し、自身を含む一部の議員が違法な金採掘を擁護しているという主張には根拠がないと一蹴。違法採掘は雇用と経済活動を生み出しているため、この問題に関心を持たざるを得ないと述べた。 シンクタンク、ペルー経済研究所の推計では、違法な金の輸出額は今年、過去最高の68億4000万ドルに達し、同国最大の違法経済活動になる見通しだ。前年比で41%増え、ペルー中央銀行が見込む今年の輸出全体の増加率(8%)を大幅に上回ると予想される。 非公式・非合法の金採掘は新型コロナウイルスのパンデミック以降、ペルーのあらゆる地域に広がった。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、採掘がもたらす大きな利益は組織犯罪集団を引き寄せ、ゆすり、殺人請負、人身売買など犯罪の急増を招いている。 こうした状況を背景に、ペルーでは過去2年間、非合法採掘業者と紛争になった合法採掘業者が攻撃されて少なくとも30人が死亡した。 また科学者らによると、金採掘は自然保護区や先住民保護区を水銀で汚染し、生態系や人間の健康に被害を与えている。 <マネーロンダリング> 議会が15日に予定されるクリスマス休暇前にMAPEを可決するかどうかは定かでない。 サルワナ氏は、REINFO制度によって非公式・非合法採掘の拡大を食い止められなかったのは歴代政権の責任だと指摘。「金はペルーにとって重要な資源であり、国際市場での価格も上昇している。我々が活動を規制しなければ、状況はますます無秩序で無法なものになるだろう」と語った。 国連によると、ペルーはコカインの原料となるコカの栽培量がコロンビアに次いで世界第2位だが、違法な金採掘による収益は麻薬取引を上回るまでになっている。 ペルーの違法採掘対策最高責任者であるロドルフォ・ガルシア将軍はトムソン・ロイター財団に「一部の情報によると、違法経済である違法採掘においては麻薬密売をはるかにしのぐ資金が動いており、その額は最大で2倍に上る」と明かした。 ペルー金融情報局によると、2014年1―10月に違法な金採掘によるマネーロンダリング(資金洗浄)は90億ドルと、全体の60%を占めた。これは行政に対する犯罪(10%)、脱税(10%)、麻薬取引(5%)を通じた資金洗浄を圧倒する規模だ。 金融情報局の活動分析主任ダニエル・リナレス氏によると、他の違法行為に手を染める犯罪者らが「違法採掘が資金洗浄の最善の手段であることに気づいた」という。 同氏は「国際市場で金需要が増え続ける限り、残念ながら職の無い何百人、何千人ものペルー市民が地元での貧困を逃れてジャングルに流入し続けるだろう」と嘆いた。