連続KO記録ストップ。なぜ強打の日本ミドル級王者、竹迫は苦戦のドロー防衛を強いられたのか?
ボクシングの日本ミドル級王者の竹迫司登(27、ワールドスポーツ)は2日、後楽園ホールで同級1位の加藤収二(28、中野サイトウ)と2度目の防衛戦を行い、辛くもドローでベルトを守ったが、連続KO勝利は「10」でストップした。 KO記録の更新と、籍を入れたばかりの麻裕さん(26)との挙式披露宴が16日に控えており、KO勝利で華燭の宴に花を添えたいとの気負いは空回り、加藤の勇気と戦略にはめられてしまった。ただ劣勢を後半に挽回したメンタルとスタミナは評価されていい。村田諒太(帝拳)に続き日本人3人目となる難関のミドル級の世界王者を目指す竹迫にとってボクシングの難しさを改めて教えられるドロー防衛となった。
「うがいの水が真っ赤になった」
倒すことしか頭になかったのかもしれない。サウスポーの加藤を相手に竹迫はボクシングをしなかった。必須のはずのリードブローもほとんどなく、ガードを固めてプレスをかけて距離を潰し一発でカタをつけにいった。 強引すぎたのである。 「あれだけ倒しているんで、とんでもないパンチを想定していたけれど想定の範囲内。プレッシャーはつらかったけれど、芯でもらわなければ大丈夫だと。ジャブが持ち味なのでジャブで戦おうと考えていた。ボデイも気をつけていた。(だから)深いダメージを負うこともなかった」 ここまで万全の竹迫対策を練ってきていた加藤に対して少々のリスペクトに欠いたのである。 加藤は休むことなく右のジャブを打ち、勤勉に前後左右に動いた。対して竹迫は狙いすぎるからディフェンスの意識が薄れて正面に立ってしまう。加藤は下がったと思わせて前へ。 「プレッシャーが強いので、近い距離になることを想定して練習してきた」という加藤のショートのコンビネーションブローをモロに浴びる。インサイドからは、「的確に当たった」というアッパーをミックスされた。それを不慣れなサウスポーの距離で徹底してやられた竹迫はパニックになった。 「打ち辛かった。打とうというときにすっと前に出てくる。そうかと思うと、くるりと後ろに回ってくるしクリンチもうまい」 イラつきムキになって何度かキレかけた。竹迫が力めば力むほど当たらない。必殺のはずの一撃が空を切ると、逆にワンツー、ジャブの洗礼。竹迫の左目が赤くなりはじめた。 「(加藤の)気持ちが折れなかった。打っても打ってもどっしりと構えている。ムキになって振って空回りした」 3ラウンドになって、ようやくセコンドの指示を耳に入れ、小さなパンチを細かくコツコツと打つスタイルに切り替えようとするが、それも、中途半端だった。ボクシングはペースを奪いあうスポーツである。加藤の勇気と戦略の罠から簡単に抜け出すことはできなかった。 5ラウンドを終えた段階で途中採点が公開されたが、ジャッジの2者が「48-47」、1者が「49-46」で3者共に加藤を支持していた。 AKB48カフェで働いている加藤の300人以上いた大応援団のボルテージがアップ。後楽園ホールに「勝てるぞ」「行けるぞ」の大声援が響き渡った。 ワールドスポーツの齊田竜也会長は「焦ったように竹迫の顔色がおかしくなっていて驚いた」という 16日に大阪で開く挙式披露宴、「11」に伸びる連続KO記録、米国ヒューストンで見たジムメイト、井上岳志のWBO世界Sウェルター級戦での大健闘……使命と期待感に刺激。それらが気負いとなって竹迫を逆境へと追い詰めていく。竹迫の口の中が切れ、ラウンド間に吐き出す、うがいの水は真っ赤になった。