連続KO記録ストップ。なぜ強打の日本ミドル級王者、竹迫は苦戦のドロー防衛を強いられたのか?
だが、その強打ゆえ国内では、誰からも敬遠されスパー相手がみつからないという苦労があった。過去10戦10KOの竹迫が仕留めるまでに、3ラウンド以上かかった試合が1試合だけある。それが、昨年6月に行ったサウスポー、チャイワット・ムアンポン(タイ)との試合でKOしたのは7ラウンドだった。 「やっぱり苦手なのかなあ。攻め方がなっていなかった」 本来なら徹底してサウスポーとのスパーが必要だったが、結局、スパーは4、5回しかできずに合計ラウンドは20ラウンドに満たなかった。日本人の人材不足である重量級(世界では中量級)の最強パンチャーゆえの悲哀だ。今後はスポンサーの協力などを得て、齊田会長がずっと温めているパートナーの豊富な海外での合宿などの対策が必要なのかもしれない。 減量にも苦しんだ。竹迫は練習ノートをずっとつけていて、練習内容だけでなく、何を食べたか、調子をどう感じたかの日々の所感までを記録に残し、コンディショニングの参考にしているが、2、3試合前あたりから減量が難しくなっていて、今回も78キロから体重が落ちなかった。朝にお餅一個とほうれん草だけを食べて1日練習した後に体重計の乗っても減っていなかった。最終的には水抜きでなんとか計量はパス。試合直前の控え室での動きは絶好調だったし、最後まで陣営が驚くほどのスタミナを誇ったが「打った後にガツンと力が入らなかった」という。 試合後、加藤は、「もう一回やりたい。不利と言われる中でやっているので、それには慣れている。どんな状況でも勝つ準備はできている。もう一回できるなら勝つ自信はあります」と再戦を要求した。 会見の最中の竹迫に、その加藤の意思を伝えると「僕ももう一回やりたい。勝ってませんから。ここでつまずいているようじゃ世界は程遠い。やっていただけるならやってもらいたい」と声のトーンを上げた。齊田会長も「再戦? ぜひ。男竹迫が。このままじゃ終われない。向こうは勝ったと思っていると思う。きっちりと白黒つけた方がいい」と受けて立つ意向を示した。 リングサイドに座っていた愛する美人妻は、10ラウンドをほとんど泣いて過ごした。試合後、竹迫に「どうやった?」と聞かれて、「ドキドキしていたわ。ずっと泣いていたんやから」と大阪弁で言う。 ひとつ年下の麻裕さんとは龍谷大時代に出会い付き合い始めた。最初のデートは6年前の2月25日で、その記念日に合わせて、先月、2人で足立区役所に婚姻届けを提出した。昨年の3月3日に戦慄の92秒KO劇で西田光(川崎新田)からミドル級日本タイトルを奪取。プロとしてのひとつの証を手に入れたその13日後の16日にプロポーズ、彼女は大阪から上京して仕事をしながら竹迫を支えてきた。 「綺麗な顔で16日の結婚式に出る」 晴れの挙式と試合が決まって以来、そう誓っていたが、両目の瞼は無残に腫れてしまった。 「その顔の腫れ。結婚式までとれへんのとちゃう?」 「いや2週間あったら大丈夫やろ」 試合後の控室の廊下で新婚カップルは仲睦まじく、そんな話をしていた。ここからは竹迫の拳には家族という責務が増す。 藤原トレーナーは控室で泣きの入る竹迫をこう言って励ました。 「勝てなかったが負けなかった。ベルトを守ったことは大きい。最後までよくパンチを出したよ。世界を狙うんやろ? めちゃいい経験になったやないか。減量にしろ、調整にしろ、試合展開にしろ、いろんな反省点が今見つかったのは良かったやないか。前向きにとらえようや」 “絶対”も“約束”もリング上には存在しない。それを勇気あるチャレンジャーに教えられただけで竹迫には意義ある熱闘ドロー防衛になったのではないか。負けるとすべてを失うが負けなければ次がある。失望の涙を忘れなければそれでいい。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)