石破首相の肝いり「スフィア基準」、避難所の居住環境改善に期待 指標の独り歩きに懸念も
災害発生後の避難所で確保すべき生活環境を指標として定めた国際基準「スフィア基準」が注目を集めている。石破茂首相が11月の臨時国会の所信表明演説で「発災後、早急に全ての避難所で(同基準を)満たすことができるよう事前防災を進める」と表明。政府は同基準を参考に避難所運営に関する自治体向け指針を今年度内に改定する方針だ。 スフィア基準の正式名称は「人道憲章と人道対応に関する最低基準」。アフリカの難民キャンプで多数の死者が出たことを踏まえ、1997(平成9)年にNGOグループと国際赤十字・赤新月運動が策定した。 同基準では、1人当たりの居住スペースは3・5平方メートルを確保▽飲料水と生活用水は1日最低15リットル▽トイレは避難者の20人当たり1基で、男女比は女性用が男性用の3倍-などの指標が定められている。 日本では平成23年の東日本大震災を機に注目され、28年に策定された内閣府の避難所運営ガイドラインで「参考にすべき国際基準」と紹介されている。だが、その後の災害でも、被災者が避難所に密集し雑魚寝するようなケースがあり、心身への影響などが懸念されていた。 首相は能登半島地震や豪雨災害で被害を受けた石川県内の避難所でも同基準を満たすよう指示。坂井学防災担当相は11月15日の記者会見で、いずれの避難所も基準を満たしていたことを確認したと説明した上で「来たるべき災害への備えも重要で、48時間以内に同基準が満たされるよう避難所の環境改善の取り組みを進める」と述べた。 防災対策強化を掲げる石破首相の肝いりともいえる同基準だが、指標が独り歩きすることに懸念もある。同基準の翻訳に携わった岡山大の原田奈穂子教授(看護学)は、同基準の数値はきめ細やかな被災者支援のための情報に過ぎないとした上で「一部を切り取ると、人権を守るための同基準の根本的な部分が損なわれる」と説明。「同基準にとらわれ過ぎず、(避難所の)状況を改善する努力を続けることが何よりも大事だ」と訴えている。(飛松馨)