五島うどん「全国区」へ 安定生産、ブランド確立が鍵 「うどん課」新設で業者支援を強化 長崎
長崎県新上五島町の名産品「五島うどん」。麺につばき油を用い、独特のつやとのど越しで人気だ。ただ、大消費地の関西や関東での消費量は全体の2割に届かず、まだまだ“全国区”とは言い難い。地元製麺業者でつくる県五島手延うどん振興協議会加盟の会員も、高齢化などで10年前と比べ約8割に減少しており、事業・技術継承などの課題にも直面する。こうした中、町は10月、「五島うどん課」を新設しブランド確立とPR、業者支援の強化に乗り出した。五島うどんを巡る現状や課題を取材した。 20日、七目郷の「ますだ製麺」。夜も明けきらぬうちから熟練職人らが作業にいそしんでいた。同社は1日に約600キロ分(乾麺ベース)を製造するが、「その日の気温、湿度で生地の配合割合、こね方などを変える。毎日が修業」(従業員の舛田友剛(ともたか)さん)という。 五島うどんの特徴の一つに、棒状にした生地を徐々に細くしながら熟成を繰り返す手延べ(一部で機械導入)製法がある。その過程で使用するのが町の花木でもあるツバキの油。生地の割れや乾燥を防ぐほか、香り付けにもなる。 ■歴史 よりをかけた生地を2本の棒に8の字にかけ、さらに細く引き延ばしていく。同社では約10キロの棒状の生地が最終的には直径約2ミリ、全長約2600メートルの麺に。20年以上働くベテラン、青崎五子(いつこ)さん(72)は「どの工程でも自分の目と手、肌感覚が重要。乾燥まで何一つ気が抜けない」と話す。 五島うどんの発祥は地区ごとに数説あるが、最古は遣唐使によって伝わった船崎地区とされ、まさに島の歴史と伝統に培われた食品といえる。2007年には、同協議会が地域名と商品名を組み合わせた「地域団体商標」に登録申請していた「五島うどん」「五島手延べうどん」が国に認可された。 出来上がった麺は、もちもちとした食感とこしの強さ、のど越しの良さが好評。鍋でゆでたうどんをすくい取り、アゴだしのつゆで食べる「地獄炊(だ)き」が特に人気だ。全国放送のテレビ番組にも度々取り上げられたこともあり、同町によると、1986年度に約3億7千万円だった年間出荷額は、2023年度は約14億8千万円にまで拡大。同年度の町内特産品出荷額(約20億3千万円)の7割超を占める主要産業になっている。中元、歳暮などに需要が高く、繁忙期は生産が追いつかない事業者も多い。 一方で、高齢化などに伴い、同協議会の会員は14年度の29業者から現在23業者に減少。後継者、従業員の確保の問題に直面している。 生産規模を見ても全国に名をはせる「讃岐うどん」の出荷が年間4万7千トンなのに対し、五島うどんは1300トン(数字はいずれも22年度、同町調べ)。県内での消費が約5割を占めており、全国区となるためには生産量の安定確保、ブランド確立などが鍵を握る。 ■誇り こうした中、同町は10月、「五島うどん課」を新設し、対策強化に乗り出した。繁忙期の需要に対応し生産の安定・拡大につなげるため、品質を保持・管理できる製品保管庫の整備を検討しているほか、販売まで支援していく。近藤聡課長は、製法や使用原料など五島うどんの定義の明文化もブランド確立には急務と指摘。「(定義を)厳格に伝えてこそ品質、味を守ることになる。歴史に基づくストーリーと相まってブランドの力をさらに高めることにつながる」と強調する。 「ますだ製麺」には昨年、舛田好伸社長(64)の長男充さん(27)が勤めていた福岡県の職場を辞めUターン。家業を手伝い始めた。舛田社長は「技術継承は重要な問題。自分も3代目となった時は迷いもあったが、今では五島うどん製造業者であることを誇りに思う」。後継者問題などを抱える五島うどん。それでも充さんは「島からなくしてはいけない大切な物。魅力をもっと広く伝えたい」と、その可能性に夢をかけている。