新ジャンルの酒「クラフトサケ」で男鹿の風土を醸す、「稲とアガベ」の挑戦
日本酒の製造技術をベースに、米を原料とする新しいジャンルの酒「クラフトサケ」が若い世代を中心に注目されている。その立役者のひとりが、岡住修兵だ。 「カルチャープレナー30」特設ウェブサイト 稲とアガベを設立したのは、2021年。秋田県の「新政酒造」で4年半、日本酒づくりの修業に励んだ後、男鹿市の旧男鹿駅舎にショップと完全予約制レストラン「土と風」を併設した醸造所を構え、クラフトサケづくりを始めた。 稲とアガベがつくるクラフトサケの特徴は、米をほとんど磨かないこと。日本酒の製造方法では、米の表層部分にあるタンパク質が雑味の原因となるため、精米歩合の数値が低くよく磨かれた米を使用した酒ほど、高価な値段をつけられることが多い。しかし岡住は、米を磨かずに栽培や製造方法を工夫することで、雑味の発生を防ぐ方法を見出した。 「雑味の原因となるタンパク質は、田んぼに使われる肥料に由来するもの。そこで肥料を使わず自然栽培で育てた米を原料にしています。その分、除草作業に手間がかかりますが、米を磨くのではなく、田んぼを磨くことで、この土地の風土を詰め込んだクラフトサケをつくることができます」 ホップやブドウ、リンゴといった副原料を使用する「CRAFT series」や米、米麹、水を発酵させ、醪を濾さずにつくる「DOBUROKU series」など、これまで製造した商品のほぼすべてが販売直後に売り切れるほどの人気ぶりだ。 2022年に設立され、現在9社の醸造所が加盟する「クラフトサケブリュワリー協会」の会長も務める岡住。「生まれたばかりの酒文化なので、今つくられるお酒はどれも世界初になる。日本酒を愛しつつも、カウンターカルチャーのような文脈で、新しい味を楽しんでもらえるのが大きな魅力。そうした挑戦をともにする醸造所同士が切磋琢磨し、クラフトサケの知名度を高め、新しい酒文化を築いていけたらと思っています」 稲とアガベが掲げる経営理念は、「男鹿の風土を醸す」。その活動は酒づくりにとどまらない。廃棄される酒粕を活用して発酵マヨネーズをつくる食品加工所や宿泊施設などを次々と設立し、地域に雇用も生み出している。また、男鹿市を国の日本酒特区にして若い醸造家が集まる「男鹿酒シティ構想」を掲げ、まちづくりにもかかわる。 「まちを未来に残すためには、文化が必要だと思っています。男鹿で新たな酒文化をつくり、根付かせて地域を豊かにする。それこそが僕たちが目指す未来であり、人生の目標です」
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