時価総額5兆円超え、コインベース創業者が掲げる「暗号資産の理想主義」
「夢物語」を語ることを許す株価の上昇
「私がこの分野に入った理由も、コインベースのミッションも、世界の経済的自由を拡大することにある」とアームストロングは述べている。「私の最新の取り組みの目的は、暗号資産をますます世界のGDPの一部を担うようにすることだ。より低い手数料とより少ない摩擦で、世界中の人々に健全なお金と健全な金融インフラを提供したい」と彼は続けた。 アームストロングの最新の取り組みのコアとなるのが、2023年8月にローンチしたBaseだ。いわゆるレイヤー2のプラットフォームであるBaseは、イーサリアムのブロックチェーンを改良し、1秒あたり数千件の取引を処理し、1件あたり1セント未満のコストで取引できるようにするものだ。現状のイーサリアムは1秒あたり約12件の取引しか処理できず、1件あたりの平均コストは1ドルだ。しかし、この改良は大きいが、既存の金融ネットワークにはまだ及ばない。Visaのグローバル処理ネットワークであるVisaNetは、1秒あたり6万5000件の取引を処理できる。 アームストロングは、低コストのBaseを他のイーサリアムベースのブロックチェーンと相互運用可能にし、フェイスブックやYouTube、Google、ウーバー、X(旧ツイッター)の分散型バージョンをサポートすることを望んでいる。また、Coinbase Commerce(コインベース・コマース)のサービスを使ってアンハイザー・ブッシュやウォートン・ビジネススクールなどの加盟店を受け入れて、PayPalやマスターカード、Visaなどの取引ごとに最大3%の手数料を請求する企業に対抗しようとしている。 しかし、コインベース・コマースは、わずか1%の手数料しか請求しないが顧客の獲得は遅れている。同ネットワークは1日あたり2000件未満の取引しか処理していないが、Visaはこれを1秒でこなしている。 ■「夢物語」を語ることを許す株価の上昇 オッペンハイマーのアナリスト、オーウェン・ラウによれば、Baseが抱える推定100万人のアクティブユーザーは、2024年にコインベースに1億ドル(約144億円)の収益をもたらすと予想されている。そのほとんどは暗号資産の取引手数料からのものだ。 皮肉なことに、コインベースは、Baseでさらに成功するために支配権を手放し、手数料を分け合わなければならない。コインベースは現在、Baseの唯一の「シーケンサー」(オペレーターや監督者の意味)だが、分散化するためには、Baseにより多くのシーケンサーを追加することが必要だ。もしBaseに4つのシーケンサーがあれば、コインベースが得られる手数料は全体の25%に減少するかもしれない。 手数料の引き下げや収益の希薄化の話は、ウォール街の投資家に歓迎されないかもしれない。しかし短期的には、投資家は気にしていない模様で、コインベースの株価は過去12カ月間でほぼ2倍に上昇した。暗号資産の価格が高騰し続け、ギークたちが取引し続ける限り、アームストロングはどれだけ理想主義的な夢物語を語っても許されるのかもしれない。
Javier Paz