美しすぎるクラゲから500万回再生の人気の深海魚まで、奇妙で不思議な深海生物たち
タルマワシ
タルマワシ（Phronima）と呼ばれる動物たちは、世界中の海のトワイライトゾーン（通常は水深200メートルから1000メートルの領域）に生息している。英語では「ベビーカーの虫」という意味の「プラム・バグ」と呼ばれるが、かわいらしい名前とは裏腹に、この端脚類の正体は狡猾な寄生生物だ。 一般的に体長は数センチに満たず、クラゲに似たゼラチン質の生きものであるサルパを捕食する。タルマワシの母親は、カニのような爪を使ってサルパの中身を食べ尽くしたあと、その中に卵を産む。その後も、ベビーカーのようにサルパを押して泳ぐことから、この名前がつけられた。 卵がかえると、母親も一緒になって、内側からサルパを食べるという行動が再開される。ホイト氏は、「別の動物を殺して乗っ取る姿と、献身的に子育てする姿は、まったく正反対ですね」と話す。タルマワシは映画『エイリアン』のヒントになったという説もある。
フクロウナギ
黒い体としなやかな尾を持つフクロウナギは、太平洋東岸の中深海域をすばやく泳ぎ回っている。しかし、フクロウナギの最大の特徴と言えば、その巨大な口をおいてほかにはない。 体は細いにもかかわらず、口の部分は突然シャボン玉のように広がり、はるかに大きな獲物でも飲みこめるようになっている。これは食料が乏しいときの予備的な手段だ。食事の方法が似ていることから、ペリカンウナギと呼ばれることもあるが、フクロウナギの歯は小さく、普段は主に小さな甲殻類を食べている。 2018年、米ハワイ州のパパハナウモクアケア海洋国立モニュメントで深海探査船ノーチラス号が撮影した若いフクロウナギ（Eurypharynx pelecanoidesの近親種）の動画は、500万回以上再生されている。
カクレマンボウ
これまで紹介した動物たちとは違い、カクレマンボウは新種だ。学名をMola tectaと言い、ニュージーランドの博士課程学生マリアン・ナイエガード氏のチームが2017年に発見した。「tecta」は、「隠れた」という意味の「tectus」というラテン語に由来する。 「とても驚いたのは、この魚が長年にわたって人目を逃れていたことです。関心が高く、多くの種が報告され、苦労して分類されているにもかかわらずです」とナイエガード氏は言う。 この魚は、南半球のニュージーランド、オーストラリア、チリ、ペルー、南アフリカ沖の冷たい海にすむことが知られている。肉の塊のようにも見えるカクレマンボウは、体重900キロほどになると考えられており、米カリフォルニアやはるか北、アラスカの沿岸でも目撃されている。マンボウの巨体は、深海に潜るときに体温を保つのに役立っている。 マンボウは、同じ種でも外見が大きく異なる場合がある。さらに、成長とともに形態が変化するので、種を特定するのが難しい。 直近の目撃例は6月3日で、米オレゴン州のビーチに打ちあげられていた2メートル20センチほどの個体だ。最初は普通のマンボウと考えられていたが、連絡を受けたナイエガード氏がカクレマンボウであることを突きとめた。 「いつも隠れているので、だまされているような気分になります」とナイエガード氏は話している。
文＝Jen McCaffery／訳＝鈴木和博
