V6水素エンジンで340馬力超 次世代スーパーカー市販化の可能性 アルピーヌ公道走行も可
CO2を出さない水素エンジン車
仏ルノー傘下のアルピーヌは、水素燃焼エンジンを搭載したスーパーカーの発売を検討している。水素を燃料とする持続可能なモデルとして少量生産される可能性がある。 【写真】水素燃焼エンジンの次世代スーパーカー【アルピーヌ・アルペングローHy4を写真で見る】 (17枚) 同社は2022年に水素コンセプトカー「アルペングロー」を初公開している。今月に入ってベルギーのスパ・フランコルシャンで開催された世界耐久選手権(WEC)で実車によるデモンストレーション走行を行う予定だったが、電装系のトラブルにより断念した。 アルピーヌのデザイン責任者であるアントニー・ヴィラン氏は、デモンストレーションの前にAUTOCARの取材に応じ、市販化の可能性を強く示唆した。 「わたし達は市販車とレーシングカーの2つの分野を念頭に置いて、アルペングローをデザインしました」 ヴィラン氏によると、当初はル・マン24時間レースのハイパーカー「A424」と並行してデザインされたが、最近の開発ではさらに公道走行に特化したものになったという。 例えば、コンセプト段階の1人乗りキャビンをやめ、よりオーソドックスな2人乗りとした。これは、リジェのLMP3レーシングシャシーをベースとしているためである。 アルペングローの市販化の見通しについて、ヴィラン氏は「両方のアプローチ(水素燃焼とバッテリーEV)を可能にしておきたい。もしかしたら、このようなクルマをシリーズ化して道路で走らせることができるかもしれません」と語った。
実現の見込みはあるか
鍵となるのは、現在進行中のV6エンジンの開発だ。コンセプトではモータースポーツ企業オレカから調達した4気筒エンジンを使用していたが、現在はアルピーヌ独自で開発を進めている。 V6の優先課題は効率性の向上だ。アルピーヌによると、レース走行では燃料の水素を満タンにした状態で約100kmを走行可能だという。 ル・マン24時間レースでは通常、1回の燃料補給で全長13.6kmのコースを10周から20周する。2027年には初めて水素カテゴリーが設けられる予定だ。 V6の最高出力は340ps以上を目指す。最終的にはレース投入も視野に入れて開発されているが、バワーデリバリーの特性を調整して公道走行可能なロードカーに搭載される可能性もある。 アルピーヌのレーシングカー担当ディレクターであるフランソワ・シャンポッド氏は、「F1エンジンのように高回転になるわけではありません」と語った。また、既存のガソリンエンジンと同程度の走行が可能だという。 ただし、走行特性はガソリンエンジンと大きく異なる。アルピーヌのチーフ水素エンジニアであるピエール=ジャン・ターディ氏は、水素の性質がいくつかの重要な違いをもたらすだろうと説明する。 「パッションの観点からは、音やレスポンスはほぼ同じです。しかし、レスポンスには違いが生まれるかもしれません」 「水素でクリーンな走りをするためには、窒素酸化物(NOx)の排出量を少なくしなければならなりません。NOx排出量を抑えるためには、ガソリンよりも無駄のない走行が望まれます」 「水素でリーン燃焼すると、低温の排気ガスが発生します。つまり、ターボチャージャーにとっては、タービンで使用できるエネルギーが少ない状態でコンプレッサーを強く働かせなければなりません。タービンとコンプレッサーの間には一種の不均衡があり、これはディーゼルエンジンよりもさらに高い。タイムラグの問題を引き起こす可能性があります」 ターディ氏は、水素はガソリンよりも広い範囲の空燃比(空気量と燃料量の比率)に対応しているため、エンジンノックを緩和することも水素エンジンの大きな課題だとしている。水素は4%から76%の濃度で燃焼するのに対し、ガソリンは1.4%から7.6%で燃焼する。つまり、燃焼室内での水素と空気の混合比をリーンにもリッチにもできるが、適切に混合するのはガソリンよりもはるかに困難だという。 「特に、水素がインジェクターから出てくるときは、ものすごい速度で出てくるので、空気とうまく混ざりにくいのです」 「エンジンの回転数を上げれば上げるほど、噴射する時間は短くなります。パワーを上げれば上げるほど、熱負荷が大きくなります。そのため、異常燃焼(ノック)のリスクも高くなってしまいます」 これはエンジンの冷却だけでなく、各燃焼室の温度を “均一” に管理する上でも問題となる。 アルピーヌの複数の幹部は、水素燃焼プロジェクトがまだ初期段階にあることを認めた。V6エンジンは最近ダイナモテストに入り、今年末までにアルペングローへの搭載を目指している。 アルピーヌは2027年のル・マン24時間レースに水素エンジン車を投入すると見られているが、まだ正式には確約していない。 水素エンジン搭載の市販車の完成時期について、シャンポッド氏は「まだ日が浅く、これから何年もかかるでしょう。公道については、すべてがわたし達の手に委ねられているわけではありません。インフラのこともあるため、どこまで進むかは何とも言えません」と語った。 また、世界的な水素ステーション・ネットワークの状況を鑑みても、水素エンジン車の普及は「非常に限定的」なものになる可能性があるとした。
チャーリー・マーティン(執筆) 林汰久也(翻訳)