男性にも少なくない「ぬいぐるみと暮らす大人たち」 知られざる意外な本音
以前、お子さん連れのご夫婦が来院されて。お父さんは最初「そんな、ぬいぐるみなんか入院させて」とクールな感じだったんですが、皮膚移植(新しい布を使用する治療法)の話をしていたら、「それはちょっと色が違うんじゃないか?」って、だんだん熱心になられて。そうしたら奥さまが、「パパが一番○ちゃん(ぬいぐるみの名前)にハマってたもんね」と暴露なさった、なんていうこともありました(笑)。 ■ぬいぐるみへの思いが、より強く濃くなる理由
――「誰かの不在」を感じるエピソードも多かった印象です。ぬいぐるみが、そういったご家族たちを支えているんですね。 こやま:取材はかなわなかったのですが、いただいた資料のなかには、亡くなったお父さんや、お子さんのエピソードもありました。悲しみは消えないんだけれど、でもそのぬいぐるみの存在が心を癒やしてくれている、という事実にすごく気持ちが動かされて。そこは描けたらいいなと思いました。 堀口:亡くされた奥さまの「分身」として(ぬいぐるみに)接している旦那さまが来院されたこともあります。いっしょに旅行に行かれたりして、心のよりどころにされている。どうしようもないつらさ、悲しみを受け止める存在なんですね。
もうぎりぎり、あと糸一本のようなところで生きている方が、ぬいぐるみさんの存在を頼りに、自分のなかに「生きる意味」を見いだそうとしている。そこに、たくましさのようなものを感じることもあります。 日本古来のアニミズム「万物に命が宿る」といった感覚と、なにか通ずる部分もある気がします。 ■ぬいぐるみ病院の存在が誰かを力づける ――最後のお話で、こやまさんは「ぬいぐるみ病院のやさしさにふれた人たちは、ぬいぐるみへの思いがより強く濃くなっているように感じました」と書かれていますが、どうしてそうなるんでしょう?
こやま:たとえば、入院中に病院のスタッフの方がご家族と交わすメールの文面が、とても優しいんです。「今日はこんなことしましたよ」とか「お昼寝をしましたよ」とか。そうやって、自分が大切にしているぬいぐるみを、別の誰かが同じように、またはそれ以上に大切にしてくれることを、みなさんとてもうれしく感じて、感動していらっしゃったりします。 ぬいぐるみ病院さんの世界観がとても豊かで深いから、その存在がすごく誰かを力づけ、前向きにしてくれる。すごいことだな、と思います。