三宅裕司「70代のいまが、一番楽しい」と語る理由 舞台演出家としての新たな境地
劇団員から信頼されるには舞台で結果を出すしかない
――劇団という大きな船を率いる船長として、三宅さんが今も昔も心に刻んでいることはありますか? 【三宅】まずは演出家として、嘘をつかないことです。SETはコメディーを上演する笑いの劇団。コメディーは、いつも舞台上で結果が出るんです。 上手くいくときは、ドーッとウケる。でも笑わそうとして上手くいかないと、劇場はシーンとするわけですよ。シーンとした場面が続いたら、誰も僕についてこないですよね。僕の言った通りに演技して、シーンとなっているわけですから。 一方、ウケれば、役者自身が気持ちよくなる。劇団員が「三宅の言う通りにやるとウケる」と、きちんと思える。そういったことの繰り返しで、「三宅の言うことを聞こう」と信頼してくれるようになるんですね。 ――SETは、ミュージカル・アクション・コメディーを標榜しています。爆笑の連続で、音楽でも楽しませ、最後に感動できるお芝居です。人を笑わせるのは大変なことですが、稽古場で大事にしていることはどんなことでしょうか? 【三宅】厳しく言ったほうが伸びる役者と、そうでない役者といますけども、だいたい厳しく言うとダメですよね(笑)。なぜかというと、僕たちがやっているのはコメディーだから。気持ちが乗っていないとダメだから。 稽古場の雰囲気がそのまま舞台で出るのがコメディーなんですよね。優しく説明して、劇団員の良いところを褒めて、気持ちを乗せるほうがいい。舞台を楽しくするには、稽古場も楽しい雰囲気じゃないと、ということはいつも考えています。 ――それにしてもコメディーを演出して教えるのは、かなり難しいことですよね。 【三宅】コメディーは、人間の感情のぶつかり合いで面白くなるんです。だからなかなかウケない役者には、気持ちを説明します。「この設定のオチの面白さに対して、手前で気持ちが違う言い方をしているから、だから笑いが来ないんだよ」とか。そこまで言うと、誰でもわかりますよね。 気持ちを変えるとセリフの言い方が変わって、相手役者のリアクションも変わる。すると次のひと言でドーッとウケて、そのフリを言った役者もものすごく気持ちよくなる。 役者が納得して、笑いのメカニズムがわかるようになると、次からは稽古場で役者のほうから聞いてくるようになります。「何でウケないんでしょうか?」って。「あ、それはお前が下手だから(笑)」みたいなこともあります。