トランプ大統領就任で2025年は「円安が加速する」根拠、日銀が円安に歯止めをかけることはどの程度可能か
日銀は、円安によるインフレ率の上昇やコロナ禍、ウクライナ戦争による世界的な商品価格の上昇が収まると考えていた。逆に、名目賃金の引き上げは、内需主導のインフレ率を2%まで上昇させる可能性がある。そしてその結果、全体のインフレ率は徐々に目標の2%へと向かうだろう。 しかし、過去半年のインフレ動向を見ると、食料品とエネルギー以外の商品のインフレ率は2%にとどまっている。一方、食料品、エネルギー、衣料品、履き物では5~6%のペースで物価が上昇している。
これらの数字に加え、“トランプ・インフレ”と円安が日銀の基本シナリオに自信を失わせつつある。そのため、少なくとも12月は、日銀はより多くの証拠が出てくるまで待っている。 日銀はジレンマに直面している。通常であれば、日本のインフレ率上昇が見込まれるならば利上げに踏み切るだろう。そうすれば金利差が縮小し、円安圧力に対抗できるだけでなく、予想されるインフレと戦うこともできる。 一方、円安やその他の要因は、過去5年間の大半で実質賃金を引き下げ、個人消費を減少させてきた。そこで、日銀は景気を浮揚させるために低金利を維持する必要がある。要するに、日本の問題には金利を上げるべきものもあれば、下げるべきものもあるということだ。
さらに悪いことに、トランプ氏が選挙戦で掲げた政策をいつ、どの程度実行に移すかは不透明である。 日本国内に目を向けると、雇用主が今年実施した比較的高い賃上げが来年も行われるかわからない。また、輸入インフレの深刻さが見えにくいため、賃上げが実質賃金にどのように反映されるかも不明だ。 日銀のインフレ戦略全体は、賃上げ率を年率3%に維持し、それが実質賃金の上昇につながることを期待している。2025年度の賃金見通しが明らかになるには数カ月かかるため、少なくとも今月は様子見の姿勢となるだろう。
■将来的な円水準を左右するのは? 短期的には金利差がドルに対する円の価値を左右する主要な決定要因である。一方、長期的には、円の購買力は、日本における生産性の伸びや、他国と比較した場合のインフレ率、国際収支の数字など、経済のファンダメンタルズに左右される。これらが改善しない限り、円安はかなり続くだろう。 日米の10年国債金利差がある場合、20年前に比べて現在の円/ドルは25ポイントほど円安になっている。今日の金利差3.5%程度では、20年前の円の価値は通常121円程度だった。同じ金利差であれば、現在の予想値は146円程度である。
レートギャップ以外の要因で円はその予想値付近で変動するため、現在の実際の価値は156円程度である。要するに、金利差が縮小しても、円は20年前の価値を取り戻せないということだ。 円安によって日本経済が低迷し、日本の輸出企業の競争力が低下しているからだ。円安は日本の家計を犠牲にして輸出企業に利益をもたらす。金融政策でこの問題を解決することはほぼ不可能だ。
リチャード・カッツ :東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)