ノーべル物理学賞に「AI研究者」の選出で波紋、統計物理学から生まれた人工知能研究の軌跡と新たな科学の潮流とは
I’m speechless. I like ML and ANN as much as the next person, but hard to see that this is a Physics discovery. Guess the Nobel got hit by AI hype. #NobelPrizehttps://t.co/WZPPHrctx8 ― Jonathan Pritchard (@jr_pritchard) October 8, 2024
また、ドイツ・ミュンヘン数理哲学センターの物理学者ザビーネ・ホッセンフェルダー氏は、「年に1度のノーベル賞発表の日は、物理学とそれを研究する者にとって、スポットライトを浴びる貴重な機会だ。それは誰かが身内や知り合いに物理学者がいることを思い出し、その年のノーベル賞がどんなものなのかを教えてもらいに行くかもしれない日だ。しかし、今年はそうではない」とし「2人の業績はコンピューター科学の分野に属する」ものだと述べている。
受賞者本人たちもまた、自分たちが賞を受け取るとは思っていなかったようだ。ヒントン氏は、受賞の知らせを受けたときは「愕然とした」と語っている。 確かにホップフィールドネットワークに関する論文は、元々は生物物理学の研究に分類されていた。人工ニューラルネットワークは、ニューロンと呼ばれる神経細胞が多数結合したシステムである生物学的な脳の物理的構造および機能からインスピレーションを得ているからだ。その基礎となる数学モデルは、統計物理学で研究されるシステムと似ている。またその挙動は統計力学の技術を用いて分析でき、人工ニューラルネットワークに関する研究だけでなく、物理学における新たな洞察にもつながっている。
■AI研究者の受賞を歓迎する声も 多くの人は物理学とAIが直接関係のあるものだとは思っていない。しかし委員会は、研究者たちが「物理学の基本的な概念と方法」に基づいて人工ニューラルネットワークの基礎となるモデルを構築したことを考慮し、より広い視野を持って受賞者を決めたと考えられる。 実際、2人が物理学賞に選ばれたことを歓迎している物理学者もたくさんいる。ハーバード大学の理論物理学者、マット・ストラスラー氏は「ホップフィールド氏とヒントン氏の研究は学際的で、物理学、数学、コンピューター科学、神経科学をひとつにまとめたものだ。そしてその意味では、彼らの業績はこれらすべての分野に属する」としている。