ノーべル物理学賞に「AI研究者」の選出で波紋、統計物理学から生まれた人工知能研究の軌跡と新たな科学の潮流とは
さらに2021年にノーベル物理学賞を受賞したイタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学の物理学者ジョルジョ・パリージ氏は「物理学は近年、ますますその範囲を広げており、過去には物理学に含まれなかった、またそもそも研究されていなかった多くの知識領域が含まれるようになっている」とし「ノーベル物理学賞は、物理学の知識においてさらに多くの領域に広がり続けるべきだと思う」との考えを示している。 物理学とコンピューター科学の融合は、量子力学とAIによっても進みつつある。量子機学械習アルゴリズムは、古典的な手法よりも指数関数的に早く特定の問題を解くことが可能になり、量子物理学の境界を押し広げるのに役立っているという。物理学とAIはいまや互いに助け合う関係であり、これらの分野の境界線がますます曖昧になっていると言えそうだ。
もちろん、AIやニューラルネットワークの利用は、物理学への応用にとどまらない。もっと身近で実用的な分野でも活用されている。たとえば気候モデリングの技術は、高度な機械学習技術を地球全体の物理的な理解に統合して気候の予測を改善している。核融合エネルギーの開発では、AIでプラズマ閉じ込め技術や原子炉の研究を最適化し、商業的に実現可能なクリーンエネルギー源への道筋を開いている。 材料科学の分野でも、AIとニューラルネットワークが、これまでにない特性を持つ新材料の発見を加速させている。量子力学と物性物理学が重要なこの分野では、材料の特性を予測し、実験研究に機械学習のアプローチを活用して大きく様変わりしつつある。
このように、AIを駆使する手法を開発している科学者たちは、物理学とコンピューター科学の交わる場所で研究を進めており、物理学における最高の栄誉に値する貢献をしていると言えるだろう。 約120年前にその歴史が始まって以来、ノーベル賞は基礎的な学問分野だけでなく、そのときどきで社会に大きな影響を与える実用的な発明や研究、業績に光を当て、その栄誉を与えてきた。たとえば新型コロナのパンデミックでわれわれにも身近になったPCR分析法の発明は、1993年のノーベル化学賞を受賞している。