女性皇族の著書が発売3ヵ月で30万部! 彬子女王殿下によるオックスフォード留学記大ヒットの舞台裏
ヨーロッパを移動する際は「格安航空券」を使うことも
『赤と青のガウン』がこれほど読まれているのは、そうした彬子女王殿下のお人柄が文章に滲み出ているからではないかと、中村さんは言う。 「国民がなかなか知り得ることのない皇族の日常。それを、文庫版で手軽に、うかがい知ることができるところに、ヒットの要因があるのではないかと考えています。知性や教養はもちろん、ユーモアにも溢れた文章で、何度も読み返してしまうほど魅力がたっぷり詰まった1冊になっています」(中村さん) 現在は、ご公務も多く、また最近では、ブータンの王族から招待を受け、非公式訪問をされるなど、活動の幅を広げられているが、留学時代は、一般的な留学生となんら変わらない生活感覚で日々を過ごされていたということに驚かされる。 金銭感覚も同様で、たとえば、ドイツでの研究会参加のために購入したチケットは、なんと格安航空券だったそう。 また、《自慢ではないが、私が旅するとたいてい何かしらの事件が起こる》と彬子女王殿下が書かれているが、実際にいろいろなハプニングがあったようだ。 たとえば、ハンブルグ市内に行こうと思い、“ハンブルグ・ルーベック空港”のチケットを買ったところ、その空港が、市内から20分で行けるハンブルグ空港ではなく、市内から70分もかかるルーベック空港のことだった、というまさかの事態に。 気付いたときにはすでに遅し。飛行機の出発時間が迫っていて、ハンブルグ空港へたどり着くにはタクシーで行くしかなかったが、《それまでかなり節約して旅をしてきたので、百ユーロ札が手元から消えていく瞬間のあの切なかった気持ちは今も忘れることができない》とのこと。しかもその後、実はハンブルグ市内から空港行きのバスが出ていて、それがたったの5ユーロだったと知り、《なんともやりきれない気持ちになった》とも書かれている。 学生にとっては、自炊も、楽しみであり苦労でもあるが、彬子女王殿下も自炊生活を始め、スーパーでしめじを見つけて、うれしくなり、レジに持って行ったら5ポンド(当時のレートで1000円以上)と言われ、泣く泣くあきらめたという逸話も記されている。 その一方で、エリザベス女王陛下(’22年崩御)から、バッキンガム宮殿にアフタヌーン・ティーのお招きを受けたり、日本の入浴剤が恋しくなり、日本の侍女の方から送ってもらったら、桐の箱に詰めて送られてきたりと、 “さすが皇室の方”というエピソードも紹介されている。 ◆父宮様の故・寬仁親王殿下との親子愛の感動的エピソード 「私がいちばん印象に残っているのは、オックスフォードの学位の授与式に出席すべきかどうかを悩まれていたくだりです」(中村さん) 授与式が行われるのは’11年5月28日。東日本大震災という未曾有の天災からまだ2ヵ月ほどの時期で、お祝い事のために皇族が海外に行くのはいかがなものかという声が出ることは容易に想像ができたタイミングだったそう。 そんなときに寛仁親王殿下が、《一世一代、一生に一度の大切な儀式なのだから、出席しないと後悔する。出てくるかもしれない雑音は、自分が文書発表でも記者会見でもして抑えるから安心して行ってこい》と背中を押してくれたという。 数多くある父宮様とのやりとりのなかでも、「本書の冒頭で語られるこのシーンには、特にぐっとくるものがありました」(中村さん)