「お金を持っていない」と思って生きることにしていますーーベストセラー漫画家になった、矢部太郎の人生観
お笑いの世界に入れた時点で成功している
きらびやかな生活には憧れず、見栄を張ることもない。 物欲はないが、好きなものにはしっかりとこだわりがある。 お笑い、漫画など、「芸」に対しては頑固なまでに対峙し、手を抜かない。 華奢な見た目とは裏腹に、矢部太郎という人は、しなやかで、ものすごく芯が強いのだ。 人生の成功の法則のようなものはありますか?と問うと、思いがけず即答だった。 「はい、あります。もう成功してると思ってるんですよ、僕ずっと。もうすでに、お笑いの世界に入れた時点で、成功してるな、成功し続けているなと思っていました。当時の僕らのことを周りの人たちが見たら、大して成功していないと思ってたかもしれないですけどね。漫画にも描いてたんですけど、結果じゃなくて、ずっと過程を、そういうものに価値を見いだせるような考え方がどこかにあって。それは自分の中で、いいことだなとは思ってるんです」 自分から手が届く範囲に、幸せを過不足なく見いだし、他人にも優しい。そんな矢部太郎の「自己肯定感」を培ったのは、やはり父親なのだと話す。 「父がそういう人ですから。一番大切なものを教わったから、ああもう、一生大丈夫だなって思うんです。だから別にお金があっても、それを使いたいってならないんですよね」
自分自身が「お父さん」になりたいとは思わないのか、と尋ねると、苦笑した。 「お父さんになりたいと思う前に、結婚したいかどうかですよね。とにかく恋愛したい、みたいなことは……ないかもしれないです。あと、子どもは、どう接したらいいかわかんないんで……遊んでても、体力ないからすぐ疲れちゃって。だからまあ、正直よく、わかんないですね」 --- 矢部太郎(やべ・たろう) 芸人・漫画家。1977年生まれ。東京都東村山市出身。1997年、お笑いコンビ「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍する。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。最新作は父・絵本作家やべみつのりとの子ども時代を描いた『ぼくのお父さん』(新潮社)。