「お金を持っていない」と思って生きることにしていますーーベストセラー漫画家になった、矢部太郎の人生観
お笑いをやめたいとか思ったことはない
カラテカは、矢部が予想もしない形で活動休止となった。 過去のインタビューでは、ずっと相方の入江とコンビを続けたいと語っていたが……。 「僕は本当に、お笑いをやめたいとか思ったことはないんです。きっとこれからも思わないと思います」 高校時代の友人だった入江とコンビを組み、ビートたけしがプロデュースする番組でネタを披露したのが、芸能界入りのきっかけだ。大学に進学しながらも、「ワクワクする気持ち」を優先し、お笑い中心の生活へと傾いていった。 「10代の頃には自分の中でも、相反する気持ちがありましたね。父のような生き方が僕にとって自然でありながら、どこかで『お父さんみたいにはなりたくない』という気持ちもあって。大学へ行けば、父とは違う人生になるかもしれないと思っていました。絵本とか紙芝居とか、父が作るものに反応できなくなって、ほかのサラリーマンのお父さんと比較してしまったり。父が、ずっと子どもの世界にとどまっていることや、経済的にも不安定なことを、もどかしく感じたこともありましたから。……それでも結局、父のような生き方を選んで、お笑いの道へ進んだわけですからね。お笑いで自立して、さらに漫画が認められたとき、改めて父には感謝の気持ちを抱きましたけど」 せっかく進学した大学にも通わず、不安定なお笑いの世界に飛び込んだ矢部のことを、父は叱ったことがない。 「子どもの頃から、『好きなことをやったらいいよね』みたいな感じで。特に何かをしなさいとか、そんなことはやめなさいとか、どっちも言われたことがないんです。うちの父は『ぼくのお父さん』に描いたあのまんまの自由人ですから」
印税は事務所が思った以上に持っていく
著書が売れると、印税が入る。 『ホームレス中学生』で約2億円とも言われる印税を手にした麒麟の田村裕は、数年で使い果たしてしまう。『大家さんと僕』シリーズが大ヒットした矢部にも、多額の印税が舞い込んできた。 「僕、田村君より先輩ですけど、あのときは奢ってもらいましたね(笑)。僕の場合は……もう、『宝くじに当たった人 末路』とか検索したりして、怖くなって。もう、『お金を持っていない』と思って生きることにしています。でも実際は、事務所が思った以上に持っていくので、みなさんが想像するよりは少ないんです(笑)」 現在は、築50年の賃貸マンションに暮らしている。 印税で不動産を買おうとは思わなかったのか。 「TwitterにはDMで、『おうち買いませんか』って来ることもありますよ。でも僕は、今の家くらいのスペースで十分生活できますし、漫画も描けます。それが、30階とか50階である必要もない。家具も、高いもののほうが素敵かもしれませんが、必要を感じないんですよね」 「検索して画像を見たら一緒かなって思うから」旅行はほとんどしない。酒も嗜まず、グルメにも興味がない。新宿伊勢丹の地下食品フロアで、たまに『大家さん』に教えてもらった弁当を買うことはあるが、新たな店の開拓をするつもりもない。 「物欲があんまりないんですよね。うーん、本や漫画、それは結構買うかな。あとは、健康グッズとか……。あっ! 印税が入って、一番高価な買い物だったのは、ドラム式の全自動洗濯乾燥機ですね。あれ便利ですよ。知ってますか?」 基本的にインドア派で、一人で過ごすことに慣れている。新型コロナウイルスで行動が制限されても、生活にほとんど変化はなかった。 「朝起きて、コーヒーを飲んで、植物に水をやって、朝ドラを見る。それからちょっと仕事をして、お昼ご飯を食べて、お昼寝して、もうちょっと仕事するかなって感じで漫画を描いたり。植物を育てるのは楽しくなりました。甲州野梅の盆栽があって。あとは、ミニトマト、フウセンカズラなんかを。最近、ネットで新しくプランターを買ったんですよ。最初は電車でホームセンターまで行って、いろいろ買ったんですけど、土とか14キロあったりしてめちゃくちゃ大変だったんで、これはもう通販だな、と。通販はいいですね、簡単で、すぐ届く。でもその分、持ってきた人が苦労してるから、申し訳ないんですけど」