【感染症ニュース】22歳・39℃の発熱・下痢そして再受診…カンピロバクター感染症疑い 医師「見込みの抗生剤処方は却って危険」
厚生労働省によると、日本における細菌性食中毒の中で近年、もっとも多く報告されているのが、カンピロバクターによる食中毒です。カンピロバクター食中毒の主な原因と推定される食品、または感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取り扱い不備による二次汚染などがあげられています。症状は、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などで、多くの患者は1週間ほどで治癒します。 今回は、カンピロバクター感染症が疑われる事例が寄せられたので、ご紹介します。 【2024年】12月に注意してほしい感染症!インフルエンザの動向に要注視マイコプラズマ肺炎は過去最多を更新医師「首都圏は伝染性紅斑に注意」 ◆カンピロバクター感染症(疑い)大阪府22歳 1日目 夜に焼き鳥メインの居酒屋に行く。焼き鳥と初めて鳥刺しを食べる。 2日目 特に症状なし 3日目 寝る前から38℃の発熱と下痢 4日目 朝起きても熱は下がらず、下痢。欠勤して病院を受診し、胃腸の風邪だろうと診断(鳥刺しを食べたことは忘れていた)。処方された解熱鎮痛剤と整腸剤服用。この日からスポーツ飲料とゼリー生活 5日目 この日も変わらず発熱と下痢。解熱鎮痛剤の効果が切れるとすぐ39℃近くまで発熱。 6日目 変わらず38℃代発熱と下痢。鳥刺しを食べたことに気が付き、再度病院受診。カンピロバクターによる食中毒だろうと診断される。整腸剤・解熱鎮痛剤が処方される。 7日目 発熱も微熱になり、下痢の回数も減る。食事を少しずつ普段通りに戻す。食事をした10時間後ぐらいに腹痛と下痢になる。 8日目 前日とほぼ同じ 9日目 発熱はなくなる、下痢が3回ぐらい 10日目 発熱、腹痛はほぼないため出勤。朝2回ほど腹痛で下痢。 現在11日目だが少し下痢 もう鳥刺しや生の肉は食べないようにします.... ◆感染症に詳しい医師は… 感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「直接診察をした訳では無いので、不明な点もあります。今回は、カンピロバクター感染症疑いとのことですが、生の鶏肉を食べたことや発熱から下痢と言った症状などから、その可能性はじゅうぶんに考えられます。今回、抗生剤が処方されなかったのは、確定診断がなされていないからでしょう。感染性胃腸炎が疑われる場合、培養検査を行ってから、原因を特定し、診断の流れになりますが、検査を行っている間に、症状が治まってしまうケースもあり、難しいところです。感染性胃腸炎の治療ガイドラインでは、まずは対症療法が選択されます。原因が判明すれば、抗生剤が処方されることもありますが、何となくの見込みで、抗生剤を処方すると、却って、症状が悪化する恐れもあります。入院されているケースは別として、診察していて、目の前の患者さんが苦しまれているのを見るのは、臨床医として辛いですが、誤った処方をしてしまうことも危険です。今回の方は、つらい中、出勤されたとのことですが、仮にカンピロバクター感染症の場合、人から人への感染は、一般的なお仕事をする中では考えなくてもよいでしょう。しかし、決して無理はしないようにしてください。カンピロバクター感染症の注意点ですが、主な原因とされる鶏肉を生や半生、加熱不足の状態で食べるのは、感染のおそれがあるため、危険です。もう食べてしまったものは仕方ないですが、下痢・発熱などで大変な思いをされたことでしょう。しかし、こう言った症状よりも気がかりなのは、症状が回復した後、しばらくして『ギラン・バレー症候群』を発症することです。ギラン・バレー症候群にかかると、手足のしびれや麻痺が起こります。ある日、脚からしびれ、突然、立てなくなるケースがあり、再発の可能性もあります。ほとんどの方は、ギラン・バレー症候群を発症することはありませんが、重症例では、呼吸するための筋肉が麻痺することで、呼吸ができなくなり、命に関わるケースもあります。また、男性の方が、ギラン・バレー症候群発症率がやや高いとのデータもあります。カンピロバクター感染症の症状回復後に、身体に何らかの違和感がある場合は、医療機関を直ちに受診してください」としています。 ◆概要 カンピロバクター属は家畜や家禽(鳥類に属する家畜のこと。ニワトリ、ウズラ、七面鳥など)の腸管や生殖器に感染する微生物です。1970年代にヒトの下痢症の原因であることが確認され、感染性腸炎の原因菌として広く認識されるようになりました。現在先進国では、散発性下痢症の原因として最も頻度の高い菌の一つであることがわかってきています。菌は乾燥に弱く室温では長く生きることができませんが、温度が低く湿潤しており酸素にさらされないほど生存日数が長くなります。そのため、冷蔵庫内はカンピロバクターの生存に好ましい環境と考えられます。 ◆症状 主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2~5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。 ◆予後 一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1~2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。 ◆治療 一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。感染性は下痢急性期に高く、2~3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2~3日で感染性が失われます。 ◆予防 カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。 食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。 ◆まとめ カンピロバクターは牛や豚、鶏、猫や犬などの腸の中にいる細菌で、この細菌が付着した肉を生で食べたり、加熱不十分の状態で食べることによって、食中毒を発症します。家庭で調理する時はもちろん、飲食店で提供されるからといって安心してはいけません。特に鶏肉の生焼けや生食は避け、じゅうぶんに加熱されたものを食べましょう。市販の鶏肉からも、カンピロバクターが高い割合(厚生労働省によると20~100%)で検出されることがわかっています。家庭で調理する際は、中心部を75℃で1分以上加熱することを目安に、表面だけでなく、中心まで完全に白くなっていることを確認してから食べるようにしましょう。一部分でも赤みが残っている場合は、必ず再加熱し、そのまま食べるようなことは決してしないでください。また、調理前は必ず手を洗い、サラダなど生で食べる食材とは別に調理するなど、二次汚染を防止しましょう。 引用 国立感染症研究所ホームページ「カンピロバクター感染症とは」 取材 大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏